32 英雄神ヘラクレス
「ヘラクレス!?まさか、ギリシャ神話の?12の偉業を成し遂げたあの伝説の大英雄!?」
突然現れて助太刀してくれた男は、自分を神、そしてヘラクレスだと名乗った。
それを聞いて驚く私。
しかし当の本人であるヘラクレスは特に気にした様子もなく笑っているだけだった。
「よく知ってるな?まあ、俺ほどの男になればそれぐらい知っていて当然か」
そう言って豪快に笑う姿は確かに人間離れした力を感じさせた。
「神……?」
ダビデは半信半疑といった様子で尋ねる。
心なしか表情が引き攣っているように見えた。
「ああ、そうだぜ?」
ヘラクレスと名乗る男は平然と答えた。
「ヘラクレスさま!助けていただいてありがとうございます!何かお礼をしたいのですが…」
私は慌ててヘラクレス神に話しかけた。
「礼には及ばない。当然のことをしたまでだからな」
そう言ってくれるけど、やっぱりこのままお礼もせずに帰すわけにはいかないよね……
どうしようか悩んでいると、ふとあることを思いついた。
(あれ?もしかしてこれってチャンスなんじゃ……)
私は意を決して言った。
「いえ!お礼をしたいのです!また会えないでしょうか!?」
あの大英雄でありギリシャの神様であるヘラクレスと知り合えたんだし、もしかしたら元の世界に帰る方法を知っているかもしれない……!
「そうか?そこまで言うなら仕方ないなぁ〜」
そう言って嬉しそうに笑うヘラクレスさんは、快く了承してくれた。
(やったぁ〜!これで元の世界に戻る手がかりを得られるかも…それに竪琴も何とかなるかも?)
思わぬところで神様に出会えたことに喜びつつ、私は期待に胸を膨らませるのだった。
***
その夜。
私は今日の昼間の出来事を興奮気味にダビデに話していた。
「凄いよね!本物の神様に会うなんて夢にも思わなかったよ!」
私は目を輝かせて言う。
しかし、何故かダビデの反応はイマイチだった。
「異教の神か…あまり関わらない方が良いかもな」
「どうして?」
私は尋ねる。
「神が善良とは限らないからな」
ダビデの言葉に私はハッとした。
(そっか……神様だって良い人と悪い人がいるんだ……)
「でも今日会った神様は助けてくれたし良い人だったよ?」
私はそう言ったけど、ダビデはまだ納得していない様子だった。
(ダビデはヤハウェって神様だけを信仰してるし、聖書って一神教だもんね……他の宗教のことは良く思ってないのかもしれないな……)
でも、私は無宗教だし、神様と出会えたなんてチャンスは逃したくない!
ダビデには悪いけど、ヘラクレスさんと内緒で会っちゃおう!
そんなことを考えているうちに眠気が襲ってきたので、その日はそのまま眠りについた。