25 今夜私を抱いて
夜が更けて就寝する時間がやってきた。
私は意を決して話しかけた。
「あの……話があるんだけど……」
緊張のあまり声が震えてしまった。
心臓がバクバクしているのがわかる。
ダビデは私の様子を察したのか真剣な表情になった。
「どうした?何かあったのか?」
「え、えっと……お願いがあるんだ」
「何だ?」
「あ、あの………私のこと抱いてくれない……?」
言ってしまった……!恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になるのがわかった。
「え?」
驚いた様子の彼を見てますます恥ずかしくなる私。
「急にこんなこと言ってごめん!でも…女の体を受け入れるにはこうするしかなくて……!」
沈黙が流れる。
「……済まない。私は君を抱くことはできない。もし君を抱けば、結婚しなくてはならないからだ」
「へ??」
予想外の答えにぽかんとしてしまう私。
「主…ヤハウェさまの教えだ。嫁入り前の娘に無責任に手を出せば責任を取って結婚しなければならないと。私はまだ結婚する気はない」
何それ!?
ああ、宗教上の教えってこと?
「そ、そっか。ごめんなさい…忘れてください」
恥ずかしくて死にそうだ。穴があったら入りたい。
だがダビデは優しく微笑んでくれた。
「いや、気にするな。だが、なぜ急にそんなことを?君らしくないぞ」
「じ、実は…」
ソロモンさんに提案されたことを話すしかない。
「何だと?息子がそんなことを…。全くあいつはロクなことをしないな」
呆れ顔でため息をつくダビデ。
「焦る必要はないさ。それに君は元の世界に戻りたいんだろう?それなら尚更だ」
ぽんと頭に置かれた手の感触に安心する。
(優しいなあ。ダビデが欲しいって言ってた竪琴、何とかしてあげたいなぁ)
そう思いながら眠りについたのだった。
***
一方ソロモンの方はというとーー
「やあ、みんな。久しぶりだね。アスモデウス君元気?」
にこやか笑顔で挨拶するソロモン。
彼の目の前にいるのは、異世界を訪れていたソロモン72柱の悪魔達だった。
彼らは全員、固まっていた。
彼らの目の前にいる男。かつて彼らを指輪の力で服従させていたこの男は二度と会うはずなかったからだ。
なぜなら彼はとっくの昔に死んでいるのだから。
それなのにどうしてここにいるのか!?
悪魔達の心境と真逆にソロモンは呑気そうに笑っていた。
嫁入り前の娘に手を出したら結婚しないといけないというのは明確に律法として記述があるわけではないですが、男が処女と寝たら賠償金を払って彼女を妻にしないといけないというような記述は聖書の申命記22章に載ってます。
追記:申命記の記載については互いに合意がないケースのようです。ですが聖書の世界(古代イスラエル)は非常に処女性が重視され、婚前性交はしない価値観が強いと思われます。
キリストの母である聖母マリアの時代も、婚約して1年間は夫と別々に暮らし処女を守る慣習があったようです。だからマリアはキリストを処女懐妊してます。