番外編2 異世界に迫る危機に奔走する聖書転生者たち③
一方、街に残っているヤマトは携帯端末から掲示板を見ていた。
掲示板には冒険者達の書き込みがリアルタイムで更新されているのだ。
そこに気になる情報を見つけたので読んでみることにした。
『未知の巨大生物現る!?精鋭部隊が退治のため出陣に向かった模様』
その精鋭部隊には聖書転生者達が参加しているようで、ソロモンの書き込みもあった。
ソロモンは、自分が見たものについて詳しく書き込んでいた。
(ソロモンさんーー!みんな…!無事でいて下さい……!!)
ヤマトは祈らずにはいられなかった。
(どうか貴方の僕達をお守りください……)
聖書転生者達の神に祈りを捧げるヤマト。その時、ふとある考えが頭をよぎった。
(待てよ……?もしかしたらーー!!)
ヤマトはあることを思いついたのだった。
3時間後ーー ソロモン達はついに件の巨大生物の元に到着した。
そこは見晴らしの良い草原地帯だったが、今は大量の魔物によって埋め尽くされていた。
「すごい数だな……」
ソロモンはその光景を見て圧倒されてしまった。
「でもやるしかないさ」
「ああ、そうだな……」
ソロモンとダビデは覚悟を決めて、目の前の魔物の大群に向かっていった。
「行くぞ!」
2人は剣を抜いて構えを取ると、一斉に飛びかかった。
「うおおおおおお!!」
ダビデの剣が閃き、次々と魔物を切り裂いていく。
「はっ!」
ソロモンは聖剣を振るい、魔物を次々と倒していった。
「くらえっ!」
さらに追い打ちをかけるように、魔術を使って広範囲を攻撃する。
アダムは無効化能力を使い炎のダメージを防ぎつつ剣技を駆使して戦う。
各々の戦闘力により、次々と生み出されていく魔物の大群を蹴散らしながらもいよいよ親玉である巨大生物の前へと進むことができた。
まさに山のように巨大で、圧倒的な存在感を放っていた。
(こいつさえ倒せばきっと終わるはず……!)
その巨大生物が動く度に地震のように地面が揺れ、周囲の草木が薙ぎ倒されていった。
そんな中でも聖書転生者達は臆することなく立ち向かっていった。
「ヤコブ、竜変身を使ってくれ」
ヤコブは変身魔法の異能を持つが、その中でも竜変身はドラゴンの力を授かり、強大な力を得ることができる魔法だった。
しかし発動中は常に魔力を消費し続けなければならず、使いどころを慎重に判断しなくてはならない。
しかしイサクは聖書転生者達に言った。
「これまでの戦いで魔物の魔力を吸収し蓄えておいた。かなりの魔力を蓄積してあるから遠慮なく使って欲しい」
それを聞いてソロモンは言った。
「わかった。ありがとう」
ソロモンの指輪で授けた異能をそれぞれ発揮していくことで、聖書転生者達の力は格段に上昇していた。
ソロモンの指輪の祝福を受け、身体能力が大幅に向上しているのだ。
また、ソロモンの指輪による武器強化の効果もあり、それぞれの戦闘能力は飛躍的に上がっていた。
そして遂にその時は訪れた。
「今だ!ヤコブ頼むぞ……!」
イサクが叫ぶと同時に竜変身を発動させた。
その瞬間、ヤコブの体が光に包まれていき、みるみるうちに巨大化していき、やがて巨大な竜の姿へと変化した。
その姿は正に圧巻であり、旧約聖書に登場する伝説上の生き物ーー黙示録の赤き竜を彷彿とさせるものだった。
これこそがソロモンの指輪の恩恵の一つーー武器や防具の強化に加えて、異能力者の能力を一時的に高めるという効果があった。
それにより、ソロモンの指輪で授けられた異能力が強化されることで、聖書転生者の戦力を大幅にアップさせることが可能となっていたのだ。
「いくぞ!!!」
雄叫びを上げながら、巨大生物に向かって突進するヤコブ。
「ヤコブ殿、気をつけろ!そいつに物理攻撃は効かないようだ!」
ダビデの言う通り、巨大生物の体表は非常に硬く分厚い鱗で覆われており、生半可な攻撃ではダメージを与えられないようであった。
そこでヤコブは口から炎を吐き出して攻撃を仕掛ける。すると巨大生物は大きく口を開けて息を吸い込み始めたかと思うと、口から灼熱の炎を吐き出した。
ゴオオオッッ!! 凄まじい熱量を持った炎が迫り来る中、ヤコブは冷静に対処する。
彼は翼を広げて飛翔することで難を逃れたのだ。
そのまま空中で静止した状態で、今度は口から氷のブレスを放つ。
ピキイイィィンッ!! 空気中の水分を凍結させて作り出した氷塊を巨大生物に向けて放つと、それは巨大生物の頭部に命中して砕け散った。
巨大生物は一瞬怯んだ様子を見せたがすぐに体勢を立て直すと、再び口を大きく開けて息を吸った後に強烈な火炎放射を放った。
ゴオオオオッッ!! 燃え盛る業火がヤコブを襲う。
だが、寸前のところで回避に成功したため直撃は免れたものの、それでもかなりのダメージを受けてしまったようだった。
(くっ……!なんて威力だ……!)
思わず顔をしかめるヤコブだったが、負けじと反撃に出ることにした。
「よし、ヤコブ殿が引き付けてくれている間に奴を倒すぞ!」
ソロモン達は巨大生物を取り囲むようにして陣取ると、それぞれが持つ特殊能力を発動した。
まず最初に動いたのはダビデだった。彼の持つ聖剣が光り輝き始めると刀身から聖なる波動が溢れ出す。それと同時にダビデ自身も眩いばかりのオーラに包まれた。
これはダビデの持つ特殊能力の一つで、剣の威力を高めることができるというものだった。
さらにダビデは他の仲間達にも加護を与えるべく祈りの言葉を口にした。
「主よ、我らを守りたまえ……」
その言葉と共にダビデの手から放たれた光が仲間達を包むように広がっていく。
「力が漲ってくる……」
「これならいけるかも!」
ソロモンとイサクは、自分達の体に力が湧いてくるのを感じた。
ダビデはさらに続ける。
「主よ、我に力をお貸しください……!」
ダビデがそう唱えると、彼の手に持つ聖剣が一際強く輝き出した。
(これは…?ダビデの祈りに主が応えているのか?)
アダムはそう思った。
ダビデは聖剣を構えて巨大生物に向かって走り出した。
そして間合いに入ると一気に跳躍して、巨大生物の頭目掛けて剣を振り下ろす。
ズバッッという音と共に巨大生物の頭に傷が付いたが、致命傷には至らなかったようで、巨大生物は怒り狂って暴れ回り始めた。