20 突然の抱擁
いきなり抱きしめられてしまい、何が起きたのかわからず混乱していると耳元で囁かれる。
「静かにしろ……」
(え……?)
状況が理解できずに硬直する私だったが、ほどなく理解することになる。
(魔聖の気配だ……!)
近くに魔物がいることに気付き、緊張が走る。
(どうしよう……!)
だがダビデは魔聖に見つからないようにするためか、さらに私を引き寄せる力を強めてきた。
魔聖は怖いけど守ってもらえる安心感に包まてしまう私だった。
(それにしても近い……!)
顔が熱い。きっと真っ赤になっていることだろう。
そんなことを考えているうちにいつの間にか気配は消えていたようだった。
「こんな所にまで魔物が来てるとは…」
「うん……」
本当にこの世界は魔物の脅威に晒されている事を実感する。
「早く戻りたいが今動くのは危険だな」
様子を見るため、少しの間隠れることにする私達であった。
(これは…チャンスかも)
思い切って気になっていたことを訊いてみるか。
「ね、ねえ。ソロモンさんと会って以来、落ち込んでたけど…何かあったの……?」
意を決して尋ねると、彼は少し驚いた顔をした。
「いや、特に何もないが…」
そう言って視線を逸らす彼を見て確信した。やはり何かあるのだと。
「嘘でしょ?」
「……」
少しの間沈黙が流れる。
「私は生前、我々の神…ヤハウェ様だけを信仰していた。ヤハウェ様は常に私と共にあり、私の全てを捧げるべき存在だと思っていたんだ」
彼はゆっくりと語り始めた。
「私はこの世界でもヤハウェ様と会えることを心の支えにしていた。だが、息子の言うことも一理ある。この世界にはヤハウェ様はいないのではないかと…」
彼の表情に影が差すのがわかった。
こんな時何て言えばいいんだろう?
私には信仰心なんてないし。
でも…。
私がダビデに出会って、この人についていきたいとどうしようもなく思った気持ちに似てるのかな?と思った。
「そ、そうなんだ。私にはよくわからないけど、でも私も元の世界の家族にまた会いたいしそれを心の支えにしてるから、その気持ちわかるよ……!」
必死に言葉を探す私。
「また会えるか不安だけど、家族は別の世界で生きてるんだって思うと少し安心できるっていうか……」
自分でも何を言ってるのかわからないまま言葉を紡ぐ。
するとダビデは…。
「……そうか。私は大切なことを見失っていた。ヤハウェ様は…主はいなくなったわけではない。別の世界だとしても存在することに変わりはないな」
彼の眼に光が宿った気がした。
「ありがとう、ヤマト。私はこれからも主だけを信仰する」
そこに迷いはないようだった。
***
私達は、遠くから私達のことを見ているある存在に気付いてなかった。
その存在は人差し指を口に当てながら、不適な笑みをこぼして呟いた。
「ふーん。やはり良いなあ、あの無垢な信仰心……うふふ、欲しいなあ♡」
獲物を狩るような鋭い視線に気付いた者は誰もいなかったのだった。




