番外編2 異世界に迫る危機に奔走する聖書転生者たち②
街では魔聖の大量発生のニュースを聞いた人々は混乱していた。
『王都に大量の魔物が押し寄せてきている』という噂が流れたことで、街は大騒ぎになっていたのだ。
中にはパニックに陥る人もいたようだが、騎士団や冒険者ギルドの職員達が必死に対応してくれたおかげで、今のところ大きな被害は出ていないようだ。
国の騎士団や冒険者達、魔道士達はこぞって迎撃に向かったらしい。ソロモンさんもその内の1人だ。
(大丈夫かな……?無事に帰って来てくれますように……)
私は心の中で祈りながら帰りを待ち続けた。
前線で戦ってくれている人達のおかげで街に魔聖が侵入することはなく、安全が確保されていた。
それでもいつ何が起こるか分からない状況であるため、油断はできない状態だ。
病院にも、魔聖との戦いで怪我をした人が何人も運ばれてきた。
重症者を優先的に治療するように指示が出ていたので、私は一生懸命働いた。
1日経って、2日目も3日目も同じような日々が続いた。
《ヤマトちゃん、そっちはどう?》
ソロモンさんからは毎日、携帯端末に連絡が届いていた。
忙しいようでいつも夜遅くに来ることが多かったけれど、今日は比較的早い時間帯だった。
《こっちは大丈夫ですよー!ソロモンさんの方はどうですか?」
《僕もなんとかやってるよ!それにしても数が多いなー!キリがないよー!》
《頑張ってください!応援してます!》
《ありがとう。ヤマトちゃんも無理しないでね。何かあったらすぐに連絡してよ?》
《はい!ありがとうございます!》
「ふぅ……」
通信を切って一息つく。ソロモンさんとやり取りして元気が出てきた気がする。
それからも、次々と運ばれてくる患者さん達の治療に専念した。
***
一方、ソロモンの方はーー
「くそっ!全然減らないじゃないか!」
「怯むな!とにかく攻撃しろ!」
「わかってる!これでも喰らえ!」
ソロモンは聖剣を振るい、魔聖達を蹴散らしていく。しかし一向に数が減る気配はなく、埒があかない状態だった。
ソロモンやダビデを始めとした聖書転生者達は、迫り来る魔聖の大群を相手に激戦を繰り広げていたが、戦況はあまり芳しくなかった。
「くっ……!このままじゃまずい……!」
ソロモンの顔に焦りの色が浮かぶ。
このままではジリ貧になるのは目に見えているからだ。
(何か打開策を見つけないと…)
「始祖さま、どうしましょう?このままでは埒があきません」
聖書転生者の1人イサクは、人類の始祖でありリーダー的存在であるアダムに助言を求めた。
「うむ……そうだな……この魔物の大群を発生させている元凶を叩くしかあるまい」
「それはつまり……?」
「恐らく、どこかに親玉がいるはずだ。そいつを叩けば少しはマシになるだろう」
「なるほど……」
聖書転生者達は一旦集まって相談を始めた。そして数分後には結論を出したようだった。
「よし、では手分けして探そう」
こうして彼らは散り散りになり、魔聖の大元を探すことになったのである。
2人1組になって探すことにした聖書転生者のうち、ソロモンとダビデのペアは森の中を歩いていた。
「うーん、見つからないね」
「ああ……一体どこに隠れてやがるんだ?」
ソロモンとダビデは注意深く周囲を見渡してみたが、親玉のような魔聖は見当たらない。
探索の間も絶え間なく魔聖が出現し続けており、彼らを苦しめていた。
「仕方ない。僕が飛行魔法を使い空から探してみるよ」
飛行魔法は膨大な魔力を消費するためなるべく使いたくはなかったのだが、背に腹は代えられないと判断したソロモンは呪文を唱えた。
すると彼の体はふわりと浮き上がり、上空へと舞い上がった。
「どうだ?見つかったか?」
下から見上げる形でダビデが尋ねる。
「うん…?あれは…?」
ソロモンが目を凝らすと、遠くに巨大な影が見えた。どうやらあれが親玉のようだ。
「何だあの巨大な魔物は!?」
ソロモンは思わず驚愕の声を漏らしてしまう。
ソロモンの視線の先にあったのは大きな翼竜の姿であった。
驚くべきはその大きさだ。
まるで山のように大きく、全身が赤い鱗に覆われていて、口からは炎が漏れ出ていた。
明らかに普通の生物ではないことは一目瞭然だった。
(まさかこいつが魔聖を生み出しているのか!?)
ソロモンは地上に降り立ち、すぐに仲間達に連絡を取って召集を呼びかけた。
ソロモンからの要請を受けた聖書転生者達はすぐに集まった。
全員が揃ったところでソロモンは指示を出す。
「いいか、みんなよく聞いてくれ。ここから少し離れた場所に、とんでもない大きさの魔聖を発見した。恐らくあいつが今回の騒動の原因だろう。今からあいつを倒しに行くんだが、その前に作戦を立てようと思う」
その言葉に一同は静かに耳を傾ける。
今も絶えずに発生し続けている魔聖の大群は冒険者達や騎士達に任せ、精鋭部隊で元凶の巨大生物を倒すという方針になった。
街の安全を守ることも重要だが、このまま放置しておくわけにもいかないからだ。
「我々で何とかしよう!主よ、我らをどうかお守りください」
ダビデはそう言って祈りを捧げると、他の皆もそれに倣うように祈りを捧げた。
その後、各自の役割を決めてから出撃することになった。