197 ヤマトの答え
今日は雲一つない快晴で、青い空が広がっている。
庭からは鳥のさえずりが聞こえてきてとても和やかな雰囲気だった。
(この世界で生きていくのか……。そして私は……元の世界で死んだことになる……)
喪服を着て泣いている両親や姉、友達の姿を思わず想像してしまう。
目を閉じれば、実家や学校での思い出も蘇ってくる。
私は性同一性障害だったけど…家族はそれを理解して、1人の人間として見てくれた。
大切な、大切な家族・・・。
(お父さん、お母さんお姉ちゃん・・・ごめんね)
思わず涙が零れそうになるのを私は必死になって堪えた。
***
「ヤマト。もう答えは決まったのか?」
元の世界に戻るか、この世界で生きていくか。
ラファエルさんに答えを伝える日は2日後に迫っていた夜。
ダビデが部屋を訪ねてそう訊いてきた。
「うん……。私・・・決めたよ」
私はそっとダビデに微笑む。
「そうか・・・」
ダビデはそれ以上何も言わなかった。どちらを選んだのかをあえて聞こうとはせず彼の優しさが伝わってくる。
「ねえ、ダビデ。少し話せない?」
「ああ、もちろんだ」
私はダビデを部屋に招き、2人でベッドに腰掛ける。
そして、ぽつぽつと話し始めたのだった。
「私ね・・・この世界に来てから本当に幸せだったんだ。ダビデやソロモンさん、みんなと出会って、一緒に過ごして……。辛いこともたくさんあったけど……でも楽しかったのは本当なんだ」
私は自分の気持ちを素直に吐露する。
「そうか。確かに君は変わったよな。最初の頃は、保護者が必要な子供だと思っていた。だが、今の君は、自分で考えて行動ができる女性だ。君は、成長したんだ」
ダビデが優しく微笑んでくれる。私は彼の言葉に胸が暖かくなっていくのを感じた。
(ダビデは私のことをそんな風に思ってくれてたんだ・・・)
「ありがとう・・・。ダビデのお陰で自信がついたよ」
私たちは互いに見つめ合って笑顔になる。
「ねえ、ダビデ。生前のダビデは…王様だったけど波乱万丈で大変な人生だったんだよね?今は生前の人生を……どう感じてるの?」
どうしてそんなことを訊きたくなったのかわからない。だけどなぜか私の口からそんな質問が飛び出したのだった。
「生前の……人生か」
ダビデは遠い目をして、窓の外を見た。そしてしばらく沈黙が続いた後、口を開いた。
「そうだな・・・。私は主によって王に選ばれ、その運命に従って生きてきたが……。後悔はないと言えば嘘になる。だが・・・この人生に誇りを持っているよ。自分の選択で道を切り開いてきたからね」
ダビデはそう言って微笑んだ。
「そっか・・・」
私はそんなダビデを見て胸がいっぱいになった。
「神は乗り越えられない試練は与えない。君がどんな道を選んだとしても……君を信じている」
「信じてくれてるの?」
「もちろんだよ。ずっと過ごしてきたからわかるさ」
ダビデは私の頭を撫でてくれた。そして優しく微笑みかける。
(ああ、やっぱり・・・この人は私にとって光みたいな存在だな・・・)
「ダビデ・・・。ありがとう」
私はそれだけ言って微笑むのだったーーー
***
そして2日後がやってきたーー
「ヤマト。君の答えを聞かせてもらおう」
ラファエルさんは真剣な顔で私にそう問いかける。
「はい・・・。私は・・・・」
私は一呼吸置いて、人生の選択を伝える。
「元の世界に戻ります」