193 恋の終わり、そして始まり
私達の最後の戦いが終わり約1ヶ月。
私や聖書転生者達を縛っていた、私達の魂の権利を握っていたセナムーンさんは消滅しーー私達は自由になった。
けれど、転生者であることがなくなったわけでもなくて。
彼らは自らの意思で、「この世界で生きていく」道を選んだ。
あれから、ヘラクレスさんやソロモン72柱の悪魔達の協力によりーーこの世界に呼び戻したい人がいるという悲願を掲げていたイサクとヤコブは、無事に再会を果たすことができた。
ダビデとソロモンさん、ユダさんはやはり再会したい人は望まずーー
そして以前のように、一つになった聖書転生者達は、頓挫していた神殿設立の着手を再開していた。
以前のような、いや前以上に仲間意識が強い彼らに戻っていて。
なんか、分裂していた頃がウソみたい。
そんな平和そのものの日々に幸せを感じていた私だけどーーー
ついに人生を賭ける大転機が訪れることになるのだった・・・。
***
その前に、少しだけ時は遡る。
私は、ダビデへの恋心をーー手放すことを決めたのだった。
彼が私を恋愛対象に見ることはない。ずっと認めることができなかったけど、なぜかそのことを受け入れられたからだ。
そしてーー
私のダビデへの想いは恋でもあったけど・・・「信仰」のようなものだと気付いた。
そうーーそれは、おそらくどこかで語られたものなんかじゃない。誰かに与えられたものではなくて。
あの人は私にとって光のような存在で、隣を歩きたいのではなくて、その神のような導きを見上げながら生きる。
ただの恋愛ではなく・・・純粋な信仰という名の愛だったんだと思う。
(ダビデ・・・この想いは貴方に伝えることはなかったけど…でも、私はずっと、貴方の味方だよ)
***
だけど、人知れず終わった初恋の、失恋の痛みはそれなりにあって。
私はいつかソロモンさんと一緒に来たことがある丘で、1人で泣いていた。
(初恋は実らないって、本当なんだなあ)
そんな時、ふと後ろから足音が聞こえた。
「やっぱりここにいた」
振り返ると、そこにはーーソロモンさんが立っていた。
私は慌てて涙を拭う。
「あ、えっと……これはその、目にゴミが入っただけで!」
ソロモンさんは、静かに私の隣に立った。そして、丘から見える景色に目を細める。
「ここはいい場所だね」
「……はい」
2人でしばらくそうしているとーーーふいに彼は言った。
「君に、感謝してるんだ」
「え?」
私は首を傾げる。
ソロモンさんは前を向いたまま続けた。
「……僕は生前、自分に満足していたし、欲しいものは全て手に入れていた。でもーー君と出会って、新しい自分になった。君といると、まだ僕が知らない可能性が開けていく。そんな人は初めてだった」
ソロモンさんの瞳の中に私が映っているのが見える。
「だから僕は、君を守るよ。君の幸せは、僕が守る」
「ソロモンさ……」
私は何か言おうとしたけど、声が詰まってしまった。
それはいつもみたいに恥ずかしいからというよりーーやっと受け入れられたからだと思う。
ずっと、自分を否定してきた私は彼の言葉を素直に受け入れることが難しかった。
だけどーーーこの人がくれる優しさを、私も信じてもいいんだよね。
(私はダビデのことがずっと好きだったけど・・・それは信仰みたいなもので隣を歩きたいわけじゃなかったんだ。私が隣にいてほしい人は本当は・・・)
私はソロモンさんに向かって微笑む。
「ありがとう、ソロモンさん。貴方のこと……信じていて良かったです」
私の気持ちに応えてくれたソロモンさんは・・・そっと私の手を取った。
私も静かに握り返す。それは彼の大きな手に比べてとても小さなものだったけどーーー不思議と気持ちは、重なった気がしたのだった。