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異世界転生したら聖書の登場人物がいる世界だった  作者: B-pro@神話創作してます
最終決戦
194/212

190 魂の深淵、その扉は開かれる

世界がきしみを上げていた。


光と闇がせめぎ合い、空間が崩れ始める。

セナムーンさんの異能が限界を超え、神域の結界そのものが変質していく。


「これって……何が起きてるの!?」


私の叫びに応じるように、空が裂ける。


その亀裂から溢れ出すのは、ただの魔力でも、結界の揺らぎでもなかった。

それは魂の深層——存在の根源に直接つながる、異次元の気配だった。



「ヤマトちゃん!」


ソロモンさんが叫ぶと同時に、私とイブさんが強烈な光に包まれた。


「っ……!」


感覚が一瞬で消えた。


時間も空間も曖昧になり、意識だけが引きずり込まれていく。



気づけば私たち3人は、どこでもない場所に立っていた。


そこは——空も地もない、ただ静かな光の海だった。


浮遊するような感覚。自分の体があるのかすら曖昧なほど。

ただ、自分たちを中心に、幾重にも光と記憶が渦巻いている。


「……ここは……」

「魂の中だ」


ソロモンさんが答えた。


「セナムーンの、魂の内側……彼女自身の深層領域。おそらく、結界が崩壊しかけたことで、僕たちの意識がここに引き寄せられたんだ」


私は息をのむ。


「まるで……彼女の心の中に入ったみたい……」


すると、その中心に、ひとつの人影が立っていた。


——セナムーンさんだった。


けれど、いつものような光の衣をまとってはいない。

白いローブ姿の彼女は、静かに虚空を見つめていた。


「……あなたたちが、ここまで来たのね」


その声は、どこか疲れたようで、けれど穏やかだった。


私は戸惑いながらも、言葉を投げかけた。


「これは……あなたの本心ですか?」


セナムーンさんは微かに頷く。


「私はこの世界を守ろうとした。魂の循環を、神域の秩序を、何より——希望を」


光が揺れる。


その波紋の中から、いくつもの記憶の断片が浮かび上がる。


孤独な座に座す元女神の姿。

転生者の魂を一つずつ抱えながら、静かに涙を落とす姿。

神としての感情を封じ、使命に徹しようとする姿——


「私は……本当は、あなたたちの魂を愛してしまった。本来、魂は管理すべきもの。愛してはいけない。でも、あなたたちは……人間は……」


その声は、震えていた。


イブさんが、そっと前に出る。


「あなたは……セナだったんですね。

優しかった、でも不器用で、でも本当は……すごく寂しがり屋だった」


セナムーンさんの瞳が揺れた。


「セナは……もう、いない。私は裁定神。魂の秩序を守る存在……。感情に呑まれたら、私の役割は終わる」


それを聞いてソロモンさんが、低く呟く。


「だけど、あなたの暴走はもう始まってる。裁定神としてのあなたは、秩序を守るという建前で、世界を支配しようとしているんじゃないか?それはもう、愛じゃない。ただの執着だ」


セナムーンさんが、目を見開いた。



「……違う……私はそんなつもりじゃ……!」


私は彼女をまっすぐに見つめた。


「あなたは、きっともう、答えを知ってる。セナとしてのあなたが、まだここに残っているなら——!」


その瞬間、魂の空間が激しく揺れた。


セナムーンの身体がふたつに割れるようにして、ひとつの『光』と、もうひとつの『影』が形を取る。


光は優しく、影は冷たい。


それは、「かつて人間を愛したセナ」と、「秩序を守ろうとする女神セナムーン」の二面性。


ふたつの存在が対峙し、いま——選ばれようとしていた。


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