189 それでも、抗う者たち
空間を揺るがす結界の波動が、神殿全体を震わせていた。
セナムーンさんは静かに手を掲げ、次なる攻撃を準備していた。
その背に揺れる金のヴェールが、まるで神託の炎のように輝いている。
「容赦はしない。今こそ、魂の秩序を正しましょう」
彼女の言葉が放たれた瞬間、全方位から雷光の如き魔力がほとばしった。
「伏せろ!」
アダムの叫びと同時に、仲間たちは即座に動く。
聖書転生者たちの連携が、ついに本格的に始まった。
最初に動いたのはユダさんだった。
彼は高速で走り出し、セナムーンの周囲に幻影を放つ。
「隙を作るだけでいい……!」
それに続いたのはカインさん。
かつて弟アベルさんを手にかけたその手に、いまは守る意志が宿る。
「過去は変えられない。でも……未来は、違う!」
彼の叫びとともに、空間が揺れた。
彼の異能が、結界の一部を削ったのだ。
「……貴方たちが、私に牙を剥く日が来るとはね」
セナムーンさんが呟く。
その瞳に、かすかな痛みが走ったようにも見えた。
「私たちが従っていたのは、あなたの正しさではなく、あなたが握る命だったのです」
アダムが言った。
かつて女神の最も忠実な従者であり、神の器を信じていた彼が、今、その存在に剣を向けていた。
「あなたの手から、命を取り戻すために。たとえ、この身が裁かれようとも……!」
アダム、ユダさん、カインさん——かつては女神に従った彼らの贖罪と覚悟が、戦場に響く。
一方その頃、結界の中心部。
「イブさん、こっちです!」
私は彼女の手を引いて走っていた。
魔法陣の激しい光と衝撃の中、二人だけが別の空間に導かれていた。
「ここは……?」
空間は、まるで内なる世界のようだった。
どこまでも白く、そして静か。すべてが凍りついたように停止していた。
「この場所……魂の核に近い」
イブさんが小さく呟いた。
その足元に、光る何かが浮かんでいる。
それは果実のように丸く、脈動している。
「これは……」
「私の……魂?」
イブさんは震える手を伸ばしかけていた。
私の脳裏に、かつて女神が言っていた言葉がよぎる。
『魂が意図せぬ形で目覚めれば、この世界は持たない』
(でも、それでも……!)
「イブさん、それに触れても……大丈夫。きっと、大丈夫です」
私の声は、迷いなく届いていた。
そして、イブさんがゆっくりと手を伸ばした——
その瞬間、世界の奥底で、小さな音がした。
それはまだ希望とは呼べない、けれど確かにそこに“生まれかけた何かだった。
戦場では、仲間たちが交互に攻防を繰り返していた。
セナムーンさんの力はなお圧倒的だったけど、彼らの連携は、それを一瞬でも凌駕する瞬間を作っていた。
「この程度……私を止められるとでも?」
セナムーンさんが声を発した瞬間——
再び、空間が震え、何かが“起きようとしている気配が広がった。
その震えの中で、私は目を見開いた。
「……来る」
その時、誰にも説明できない感覚が、世界全体に満ち始めていた。
——魂の中核が反応している。