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異世界転生したら聖書の登場人物がいる世界だった  作者: B-pro@神話創作してます
白と黒の反転
180/211

176 屈せぬ者のために、我らが屈する

アダムの目が、まっすぐにダビデを射抜いていた。


その眼差しには、慈悲も、迷いもなかった。

ただ、峻厳な意志と、何かを断ち切るような冷たさが宿っていた。



「ダビデよ。主を信じ、その信仰を貫くというのなら、それもよい」


静かな言葉。だけどその響きは氷の刃のようだった。


「だがそれは、この世界において——淘汰を意味する」


場が、凍りついた。


「魂を管理するセナムーンの加護を拒み続ける者が、生き続けられる保証はない。従わぬのなら、命を失ってもらうしかないのだ」

「…………っ!」


私は、息を飲んだ。


本気だった。

アダムは、本気で、ダビデの命を——消す覚悟をしている。


「選びたまえ。主だけへの忠誠を守るか、生を繋ぐか。そなたの意志に委ねよう」


——なんて、選ばせ方だ。

そんなの、選ばせちゃいけないんだよ……!


沈黙の中で、ダビデがゆっくりと口を開いた。



「……ならば、私の命は主に返そう」



落ち着いた、穏やかな声だった。

それが、どれほどの覚悟を秘めた言葉か、わかるからこそ怖かった。


「女神の庇護下に生きるつもりはない。主が導かぬ地で、生き長らえる意味はない」

「ダビデ……っ!」


思わず叫んでいたのは私だった。


「やめて! ダビデが間違ってるなんて、誰も言ってない……!信仰を守ってるだけなのに、どうして……!」


私は、アダムの前に立ちふさがっていた。震える身体で、それでも逃げずに。


「だったら……だったら、私が代わりに……!」

「代わりに?」


アダムが、目を細めた。


「私たちが、従います。あの女神に心を捧げるわけじゃない。でも、この世界で生きるために、女神に——形式としての従属を選びます」

「父さん!ダビデの命を取るなんてやめてくれ!俺たちが従えばいいんだろ」


横からカインさんが叫ぶ。



「……アダム殿。私も従います。どうか父に情けを」


ソロモンさんも従属を誓い、ダビデを守ろうとする意思を示す。

次に発した私の言葉は、彼の想いそのものだったと思う。


「ダビデの命だけは、どうか……」


静かな沈黙が落ちた。


アダムは、しばし私たちを見つめたまま、何も言わなかった。やがて低く短く息を吐く。


「……そうか。ならば、そなた達が、女神に忠誠を誓うというなら——その者は、命だけは繋がれるだろう」


静かで、決して情に流されることのない声。


「主に祈りながら、セナムーンのもとに身を置く。以前の神とこの世界の神ーーー二つの神の狭間で、我々は生きていくことになる」


私は黙って頷いた。

それでも、ダビデが生きてくれるのなら。

信仰を貫いて、でも命を失わないでくれるのなら——それでいいと思った。


ダビデは、何も言わなかった。

ただ、目を閉じて、静かに天を仰いでいた。


その横顔が、どこまでも静かで、悲しくて、美しかった。


(彼は屈しなかった。私たちが、彼の信仰を守るために、屈したんだ——)


(だけどそれでも、彼の命があるなら……私は、この決断を悔やまない。)


——こうして、聖書転生者たちは女神に従うこととなった。


それぞれの想いを胸に秘めたまま。

祈りと葛藤を携えて、物語は次の幕へと進んでいく。

読んでくださってる皆様、ありがとうございます。


当小説はリアクションのお気遣い無用です。読んでいただけることが有難いと思ってます。

ですがブクマや評価は励みになります。⭐︎1から歓迎です。

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