171 聖書転生者達に秘密を明かすヤマト
ダビデと仲直りした私は翌日、アダム達の元を訪れていた。
昨日、気まずくて途中で逃げ出した挙句、そのまま放置だったので謝罪する為だ。そして私はある決意を胸に秘めていた。
「ヤマトちゃん!!!」
扉を開けると同時に弾丸の如くアベルさんが駆け寄ってくるのが見える。
「僕、ヤマトちゃんに謝りたくて…。勝手にあんなこと言ってごめん!!許してくれる……?」
しゅんとした様子でこちらを見つめてくる彼を見ているとなんだか小動物みたいで思わず笑みが溢れてしまうのだった。
「ううん、私こそごめんね。みんなも、昨日は勝手にいなくなってごめんなさい」
「いや、いいんだ。ところでヤマト。我々は今後、派閥は分かれても交流をする方針となった。君も我々の仲間であることは変わらない」
アダムがそう言うとイサクやヤコブも同意を示すように笑って頷いてくれた。
私が実は元は男だったということも気にせず受け入れてくれたんだと知り嬉しくなった。
(でも……もうみんなに隠すのはやめよう)
「あの……実は私……前の世界で確かに男だったけど・・・体と心の性別が違う人間だったの。つまり今の私は体も心も女だから…これまでと同じと思ってくれたら嬉しいかな」
私が元の世界で「性同一性障害」だったという、もう一つの秘密ーー
それももう隠さなくていいって、思えるようになったんだ。
「え・・・そうだったのか。わかった。これまで通り君は女性だと扱わせてもらうよ」
アダムのその言葉を聞いた時、やっと彼らの仲間として認められたような気がしたのだ。嬉しかったんだけどそれ以上に安堵感の方が大きかったようで一気に力が抜けちゃったよね……あはは……。
「やっぱりそうだったんだ!ヤマトちゃんは前の世界で男だったって魂の記憶から感じたけど、女の子としての記憶もあったから不思議だったんだー!」
アベルさんが納得したようにそう言って笑っているのを見て私も笑うのだった。
***
「ヤマトちゃん。もう終わったの?」
外で待っていてくれたソロモンさんが声をかけてきたので、私は彼の元に駆け寄る。
「はい、さっきちょうど話し終えたところです。あ、そうだ聞いてくださいよ〜!昨日の夜なんですけど〜」
話を逸らすというわけではないのだが話題を変えようと昨夜のダビデとの出来事について話そうとしたわけなのだが・・・ふと見るとソロモンさんの顔色が少し変わったような感じがした。何か言いづらいことがあるかのような表情だったので心配になり声をかけようとした時だった。
「・・・ごめん。あの人のことは聞きたくないから、他のことを話そうよ」
え・・・?どうしたんだろう?『あの人』って言い方が心なしか冷たいような気がするけど気のせいなのかな……?もしかして喧嘩でもしたのかなぁ……。
「ねえ、丘の上に行ってみないかい?今日は天気もいいし風に当たりたい気分なんだ」
少しぎこちないながらも笑顔を浮かべているように見えるソロモンさんの言葉に促されるよう私は丘に向かって歩くことになった。
そうして私たちは街を一望できる丘の上までやって来たわけだが……。ここで一体何が起きるんだろうか。
何気にここの景色を見る機会は初めてだったりするんだよね〜。それにしても改めてみると綺麗な街だよねぇ……いい眺めだなぁ〜〜。うん、いい感じ!
「ねえ、ヤマトちゃんは元の世界に戻りたいって前に言ってたけど……家族と会いたいこと以外に理由があるんじゃない?」
風に靡く髪を手で押さえていると突然そんなことを言われたものだからびっくりした。しかもまさソロモンさんから聞かれるとは思わなかったからね。動揺を隠しきれないままに答えるしかなかった。