166 仲間同士の分裂なんておかしいよ!
時は数時間前に遡る。
聖書転生者達はダビデとヤマトが戻ってこないことについて話していた。
「あの2人、あれから戻ってこないが大丈夫だろうか?」
イサクが心配そうにそう言うがそれに対しヤコブが口を挟む。
「我々に気まずいから先に帰ったのではないですか?ヤマトの心境として戻りづらいでしょし」
「それもそうか」
それを聞いて納得したように頷くイサク。ダビデはヤマトの保護者で2人は一緒に住んでいるので家に帰ってもおかしくないと判断したのだろう。
「僕、ヤマトちゃんに謝りたかったのに……」
今回の元凶となったアベルがシュンとした顔で落ち込んでしまっているのを見かねてカインが言う。
「そんなに落ち込むなよ!明日謝りに行こうぜ、俺もついて行ってやるからさ」
その言葉を聞き安心したのか表情が和らいだアベルを見た後ーーーふとアダムがこんなことを言い出したのだ。
「ところでアベル。この機会に言っておくが我々は現在、派閥が分かれている状態なんだ」
アダムは女神派と対抗派に分かれた顛末をアベルに説明した。
「お前はどちらに属す?」
そう問われたアベルであったが誰も予想できない発言を口にしたのだった。
「え?どうして仲間同士で分裂なんてするの?考え方が違ったって協力することは出来るはずだよ!」
あまりにも意外な答えだったので周りが一瞬、静まりかえってしまう中アベルは続ける。
「だってみんな良い人だし、僕はみんなのこと好きだよ。みんなと仲良くしたいんだ」
この言葉を聞いた他の者は驚きのあまり硬直していた。自分達に向かってここまで言ってくれた人間を初めて見たものだから。
確かに価値観の違いから分裂し、対立するような形になってしまったが、嫌いになったわけでも憎み合ってるわけでもない。
ただ互いの守りたいものが相違しているだけであり、だからこそわかり合えない部分があっても仕方ないと思っていたのだ。それをこうもあっさり言うことが出来る人間がいたのかと思うと衝撃的だったのだーー。
やがて皆、我に返ったあと口々に思ったままの言葉を投げかけていく。
「アベル。お前の言う通りだ。我々は自分の守りたいものに固執するあまり頭が堅くなっていたようだ……気付かせてくれてありがとう、感謝する」
アダムがそう述べながら微笑みかけるとアベルもまたニコリと微笑み返した。
こうして聖書転生者達は、派閥は保ちながらも今後は交流していく流れが出来上がっていくことになるのだった。
(この流れは我々対抗派にとって良い流れなのか…?だが、ユダ殿やカイン殿と隠さず交流できるのは都合が良いのは確かだ)
表向きは女神派を装っているカインとユダとは、怪しまれないよう交流を避けなくてはならなかったので、今回の件は有り難いものであるのは間違いないなと考える一方で新たな問題が生じる可能性もソロモンは考えていた。