16 父の威厳
「悪魔を従えることは主に背くって言うけどさ、僕は主から許可をもらったんだけど?」
「何だと?」
ソロモンさんは得意気な顔で、指に嵌めた指輪を私達に見せる。
「ソロモンの指輪と呼ばれる、悪魔を使役できる指輪。この指輪を、主は大天使ミカエルを介して僕に授けた。神殿設立のためにね」
「………」
ダビデは黙ったままだ。険しい表情を崩さない。
対するソロモンさんは余裕の表情である。
「主が授けたとしても…。神殿設立のためだろう。人々のために役立てるならともかく、お前の欲で支配下に置くなど間違っている」
「何で?」
正論で攻めるダビデに対し、ソロモンさんは飄々として答えた。
「使えるものは有効に使う。それが僕の信条だからね。それにさ……」
そこで言葉を区切ると、彼はダビデを睨みつけた。
「父上は僕によく言ってたよね。『主の道を歩め』ってさ。それってつまり、主のためだけに生きろってことでしょ?だけどね」
ソロモンさんはさらに続ける。
「この世界はイスラエルとは違う。別の世界だ。主…ヤハウェさまがいるのかも疑わしい。異世界であるなら、異世界の神がいるんじゃない?」
その言葉にダビデの顔色が変わる。
いつもより青ざめているように見えた。
「それに、ヤハウェさまは自分以外への信仰を認めなかったけど、僕は違うんだ。他の神々も認めるつもりだよ。父上はこの世界に存在するかも疑わしい神だけを信仰し続けるつもり?」
「……っ!」
痛いところを突かれたのか、ダビデの顔が歪む。
「私の信仰は変わらない。だがお前がやっていることは危険だ……!」
「危険?どこが危険なの?ねえ、教えてよ父上!」
煽るように言うソロモンさんに対して、ダビデは何も言い返せないようだった。
(なんかよく分からないけど、ソロモンさんが優勢みたいね)
二人の会話を黙って聞いていた私はそう思ったのだがーー
「例え悪魔であっても…彼らの意思を無視し服従させるやり方は間違っている。お前は面白がっているようにしか見えないぞ」
ダビデは反論する。その口調には怒気が混じっていた。
ソロモンさんは一瞬黙った後、再び口を開いた。
「父上には関係ないし…」
「俺はお前の父親だ!!!」
「!!」
その言葉を聞いた途端、ソロモンさんの表情に動揺が走っていた。