161 ヤマトを追いかけるダビデ
私が元の世界では男だったことーー
ダビデとソロモンさんだけが知ってるはずだった私の秘密。
その秘密を、アベルさんは何も悪気がないような顔でサラッと尋ねてきたことに驚きすぎて言葉を失ってしまう程だった。
当然、周囲は沈黙していて誰も喋らない気まずい空気が流れるだけなんだけどそれでもアベルさんはマイペースなのか全く気にする様子もなく言葉を続けるだけだった。
もうやめて……!!みんなの視線が痛いよ!!!っていうかなんでそんな質問するの!?興味本位にしても酷いでしょ?!普通聞かないじゃんそんなことっ!?!?!?!?!
私の心の中ではそんな感じの叫びが飛び交っていたけれど流石に口に出せるはずもなく心の中で文句を言うことしか出来なかった。
「ご、ごめんなさい。私、失礼します」
私は耐えきれなくてその場を走り去るしかできなかった。
***
ヤマトが逃げるように去っていき、その場に残された聖書転生者達はというと。
ユダとカインは顔を見合わせてから頷き合った。
「ヤマトちゃん……待って!」
ソロモンは逃げ去っていったヤマトを追いかけようと慌てて立ち上がらんとするがそれを止める者がいたーーそれはユダだった。
「!?」
ソロモンは戸惑った顔をするがユダは冷静に彼に告げる。
「ここはダビデ殿が追いかけた方がいいと思う」
「俺もそう思うぜ。ダビデ、追いかけてやれよ」
「「え…?」」
ユダとカインの言葉にダビデとソロモンは思わずハモるように間抜けな声を出す。
「貴方は彼女の保護者だろう」
静かにそう指摘するユダに、ダビデは納得いかなさそうな顔をしていたのだが頷いて見せたのだった。
「わかった……行ってくる」
ヤマトを追いかけようと部屋を出ていくダビデの背中を一同は見送ることになるのだった。2人が出て行ったあと部屋の中に静寂が訪れる中、おずおずと口を開く人物がいた。その人はアベルであった。彼の表情はいつもと変わらないように見えるがどこか曇ったようなものを感じていたのだろう。彼は不安そうにこう言った。
「……僕もしかしてまずいこと聞いちゃった?」
「アベル君。ヤマトちゃんが元の世界で男だったというのは誰かから聞いてたのかい?それとも…」
「えーっと…僕の…『異能?』だっけ?それが教えてくれたんだよ〜」
それを聞いたソロモンはそれ以上何も追求することはないのだった。
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