159 誰よりも純粋な少年
アベルさんが何気なく口にした言葉。
『女神はこの世界の人達の魂を管理してる存在』
それってどういうこと?
人々の信仰心を失い神として忘れられた存在に落ちてしまったとあの女神セナムーンは自分のことを言っていたはずなのに。
ソロモンさんも困惑を隠しきれない様子だったものの何とか平静を装って会話を続けようとしていた。
「・・・それは一体誰から聞いたんだい?」
ソロモンさんの問いかけにアベルさんはキョトンとした表情で答える。
「あれ?もしかして知らなかった?セナムーンさんが教えてくれんだけどな〜??」
その瞬間、ソロモンさんの表情が険しくなったような気がした。その表情からは怒りのようなものを感じることができた気がした。
「……そうか、わかったよ。ありがとう教えてくれて」
そう言うとソロモンさんはそのまま黙り込んでしまった。その様子を見たアベルさんが心配そうに声をかける。
「どうかしたの?」
ソロモンさんはハッとしたように顔を上げるといつもの優しい笑顔に戻っていた。
「ううん、何でもないんだ」
アベルさんは確かに天真爛漫で純粋そうな子だけど…もしかして天然だったりするのかな?だとしたら少し厄介な相手かもしれないぞ……。
そしてこの嫌な予感は的中してしまうことを、私はこの時は知らないのだった。
ソロモンさんは少し考えた後、私に声をかけてきた。
「ヤマトちゃん、悪いけど今日は帰ってもらってもいいかな?また明日来てくれるかい?」
突然の申し出だったけど、私にはなんとなく理由がわかったような気がしていたので素直に従うことにした。
「……わかりました」
***
女神派のアダム側に場面は移る。
アダムは1人の女の前で跪いていた。
その女とはーー聖書転生者達をこの世界に転生させ彼らを眷属にした張本人である女神セナムーンだ。彼女はアダムを見下ろしていた。
「アベルを転生していただき感謝する」
と言って頭を下げる彼にセナムーンが言う。
「私の言いつけ通り彼を対抗派と交流させてくれたようね?」
「はい。彼らとは平行線ですが、食事会をしたことで親睦を復活させることはできたと思います」
それを聞いて満足げに微笑む彼女。どうやら成果はあったらしいと安心した様子だ。しかし次の瞬間には真剣な表情になっていた。
「アベルが貴方方とダビデ達対抗派の架け橋になってくれるでしょう。あの子の純粋さは使えるはずだわ」
そう言って目を細める彼女にアダムは答えた。
「仰せのままに・・・」
それに対してにっこりと微笑み返す彼女の真意を測ることは誰にもできなかったという・・・。
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