157 兄と弟
こうして無事再会を果たしたカインとアベル。
アベルはまだこの世界に来たばかりなのでしばらくは父であるアダムと一緒に暮らし、彼が面倒をみることになっているようだ。
アベルは生前の頃と変わらず天真爛漫といった様子でよく笑い、屈託のない笑顔を向けてくるので見ているこちらまで幸せな気分になるほどだ。
「そうだ、アベル。この世界は…魔聖っていう魔物が出るんだ。だから油断するなよ。俺が戦い方を教えてやるから、外に行ってみるか?」
そう言うとアベルは少し考えた後で頷いた。
「うん、行ってみたいかも……!」
カインはやはり面倒見が良い性格でいかにも兄らしい。そんな息子達の様子をアダムは感慨深い気持ちで眺めていた。
(私の最初の息子達……あんなことになってしまったが。またこうして仲睦まじい姿を見ることができて良かった)
一方、カインは愛する弟との再会と和解を果たしたことで気分が高揚していた。
(もう二度と会えないと思っていたからな……まさかこんな形で会えるなんて夢にも思わなかったぜ)
だが、ある疑問も同時に浮かぶ。
(だけどーーー俺たち転生者って、『罪悪感』を抱えてることが共通してるはずだし、それが条件かと思ってたんだが・・・アベルは当てはまらないような…?)
そう考えると不思議に思うことがあったのだ。
(まあ考えても仕方ないか)
そこで思考を打ち切ることにした。それよりも今はアベルと共に過ごす時間を大事にしようと思ったのだったーー
***
新たな聖書転生者としてアベルが転生してきたーーこの出来事は聖書転生者達にとっても衝撃的な事件であり、彼らにとって重要な意味を持つこととなった。
それはもちろんダビデ達対抗派にとっても同様であった。
(新たに我らの同胞がこの世界に来たことは喜ばしいことだが…。あの女神が本当に転生させる約束を守るという証明になってしまったな…忌々しいことだ)
ダビデは苦々しい表情で思案する。
(まずイサク殿を説得してこちらに引き入れる作戦だったが、まるで先手を打たれてしまったかのようだ……いやむしろ我々が追い込まれているのかもしれないな)
打開策を思いつき、女神側だったユダやカインが自分達の仲間に加わってくれ、追い風が吹いていると楽観視していたのが正直な気持ちであったが、やはりそう簡単に事は運ばないようだと認識を改める必要があった。
ならばどうするか?このまま手をこまねいているだけではいずれ追い詰められてしまうだろう。そうなる前にこちらから打って出るしかないと考えたのである。
だがーーー
ダビデ達対抗派が絶望してしまいそうになる事態が発生することになるとは、この時誰も想像していなかったのである。
読んでくださってる皆さま、誠にありがとうございます。
1月末よりいいね受付停止が廃止されリアクションボタン実装が強制的になるようです。
当小説はリアクションのお気遣い無用です。読んでいただけることが有難いと思ってます。
ですがブクマや評価は励みになります。⭐︎1から歓迎です。