155 異世界の絶対神ミュトス
翌日ーー
カインは朝から落ち着かず、部屋をウロウロしたり鏡の前でポーズをとってみたりを繰り返していた。それを見たユダが呆れた様子で声をかける。
「少しは落ち着いたらどうだ?大の大人がみっともない」
「そ、そんなこと言ったって落ち着かないものはしょうがないだろ!なあユダ、お前も気にならないのか!?」
興奮した様子のカインにため息混じりに返すユダ。
「ならないわけがないだろう・・・。だが当事者は君だ。僕は所詮外野の人間だ」
「うぐっ・・・」
痛いところを突かれて黙るしかないカイン。そんな彼を見てユダは再びため息をつくと彼の異能である念話を発動する。
《あの女神は、自分が約束を守るという証明をするつもりだろうね。だからまず1人、この世界に転生させることにしたんだろう。信頼させるためにも》
それを聞いてようやく落ち着きを取り戻した様子のカインだったが、それでも不安は完全に拭えないようだ。そんな様子を見かねたユダは助言を与えることにしたようだ。
《とにかく君が今できることは祈ることだと思うよ。無事に会えるようにね》
それだけ伝えるとユダの念話は途切れたのだった。
(今日…アベルがこの世界に復活するのか。確かに望んでいたことだがーー俺はどんな顔をして会えばいいんだ?)
いざとなると緊張してしまうカインだったーー
***
聖書転生者達をこの世界に転生させた首謀者であり、彼らの主人でもある女神セナムーンはある男の元へ向かっていた。
「入るわよ、ミュトス」
それはこの異世界の絶対神であるミュトスの領域だった。彼女が呼びかけると目の前に光の粒子が集まり、その中から一人の男が現れた。その男は背が高く細身で、長い髪を靡かせ穏やかな微笑みを浮かべている。
「頼んでいた光着を取りに来たの。可愛い眷属がまた1人この世界に来るから♡」
この世界の魔物こと魔聖は、「光着」と呼ばれる衣服を着用していないと倒すことができない。
なのでセナムーンは、転生者には予め用意しておいた光着を着用した状態でこの世界に復活させているのだった。
「ええ、もちろん。たくさん用意しておきましたよ。多い方がいろいろ着られていいでしょうからね」
光着が作れるのは絶対神ミュトスだけだが彼はいくらでも作ることができた。なので代理で光着を販売する店まであるくらいだ。
「転生させるのは貴方の自由ですがあまり無茶をさせてはいけませんよ」
ミュトスは嗜めるよう言うがセナムーンは全く気にしていない様子だ。
「わかってるわ♡」
そう言っていそいそと部屋を出て行く彼女を見送った後、ミュトスはふと呟く。
「……セナムーン。私以外の神は信仰心を失い存在すら消えつつあるというのに、貴方は相変わらずですね……」
そう呟いて自嘲気味に笑うミュトスであったーーーー
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