154 カインの望み
「何だい、父さん。大事な話って」
カインはいつも通り飄々とした態度でアダムに話しかける。対するアダムはやや緊張した面持ちだ。
(何だ?まさか俺が裏では対抗派に回ったことがバレたんじゃないだろうな?)
カインは内心ヒヤヒヤしながらアダムの言葉を待った。
しばらく無言の時間が続く。やがてアダムはゆっくりと口を開きこう言った。
「実はな。女神セナムーンから私に知らせが入ったのだ。そろそろ、我らが望む1名をこの世界に転生させてもいいと」
「え・・・何だって!?」
思わず大きな声で叫んでしまうカイン。予想していなかった事態に頭が真っ白になってしまったらしい。
そんな息子の様子を苦笑しながらアダムは話を続ける。
「だが約束通り、『1名ずつ』だ。そこで考えたのだが…まず最初はお前が望む1名を選ぶ権利を与えよう」
「・・・・・は?俺……?」
カインは思わず聞き返してしまう。それはそうだろう。まさか自分が最初に望みを叶えられるとは夢にも思っていなかったのだから。
(アベル……本当にお前と再会できるっていうのか?夢じゃないよな?いやでも待てよ・・・?)
もちろん有難い話なのだがそれでいいのだろうかと思い直すカイン。
「ま、待ってくれ。それなら父さんがまず最初に選ばれたらいいんじゃないか?」
対抗派にとって最難関はアダムと考えている。アダムがイブを取り戻せばそれも解決するのではーーそう思ったカインは提案するが、即座に却下されてしまう。
「いいや、私は一番最後だと決めているのだ。お前はずいぶん奉仕活動に精を出していた。ならばお前の選んだ者の方が相応しいだろう」
どうやら最初から決めていたことのようだ。こうなると反論しても無駄だろうと判断したカインは黙って頷くことにする。すると今度は逆にアダムの方から提案があった。
「それで、お前は誰を望むんだ?」
その質問に対し、少し悩んだ末に答えるカイン。
「俺は・・・アベルがいい」
それを聞いたアダムは一瞬驚いたような顔をした後ですぐに真顔に戻り頷いた。
「わかった。では今から私についてこい」
そう言って歩き出すアダムの後を追いかけるカイン。そして二人は女神の部屋へと向かうのだったーーーー