152 イサク達の秘密
《念話が使えなかったのは、女神の妨害の可能性もあるかもしれんな…》
私が思っていたことをダビデが代わりに言ってくれた。やっぱりそう思うよね……。だとしたらますます厄介な事態になってる気がするんだけど大丈夫なのだろうか……?
《我々の魂胆に気付いているのかもしれない》
《その可能性もあるだろうね。だが今は何とも言えない。だが朗報もある。イサク殿のことだ》
ソロモンさんがそう言った瞬間、私はハッと息を呑んだ。そうだ、イサクのことについても話し合いたかったんだったすっかり忘れてたよ・・・。
《彼はおそらく迷っているんだと思うんだ》
《迷っている?》
ソロモンさんの言葉に興味深そうに反応するダビデ。私は黙って続きを待つことにする。
《我々にも共感できると言っていただろう。彼は対抗派に回りたい気持ちもあるということだ。だがこの世界に呼び戻したい息子のこと、そしてアダム殿への忠誠を捨てきれないでいるんだろうね》
確かにそれはあるかもしれない。
《だが説得する余地は十分あるということだな》
《うん、そうだね。食事会の件で頓挫してしまったが、イサク殿が迷っていることを察知できたのは収穫だ》
問題はアダムへの忠誠心だけど、そこはうまく丸め込むしかないってことかな・・・。うーん、うまくいくかなぁ・・・。
***
場面は変わり、イサクとヤコブ側に移る。
二人はイサクの屋敷で話し合っていた。
「なあ、ヤコブ」
「何でしょう、父上」
「お前には打ち明けるが、私はこのままあの女神セナムーンに従っていいのか悩んでいるのだ……」
「えっ!?」
突然の告白に驚くヤコブだったが、無理もないことだろう。何故ならイサクはアダムを深く敬愛しているからだ。そんな父親がまさかこんなことを言い出すなんて思いもしなかったに違いないのだから。
「ですが『あのこと』を我々3人だけは知っている……だから始祖さまは、いずれ対抗派の彼らも我々の元に来るように誘導してくれるはずです……」
「そう……だな……」
歯切れの悪い返事をする父親を見てヤコブは少し苛立った様子で問いかける。
「何を迷う必要があるのです!?始祖さまを信じましょう!」
「ああ……わかっている」
アダム、イサク、ヤコブ。
この3人は、表向きは女神派を装っているユダとカインも知らない「ある秘密」を共有している。
そのため、彼らの信頼関係は深いものだった。だからこそ彼らはダビデ達やユダ達とは違う信念を持っていたのだったーー