142 アダムとイブ
ユダの説得により、カインは対抗派へ転ずる決意を固めることとなった。
残りはイサクとヤコブ、そして彼らのリーダー役存在であるアダムだった。
ユダとカインは念話を通して話し合っていた。
《アダム様が対抗派につけば、イサク殿とヤコブ殿もこちらにつくかもしれないな》
イサクとヤコブは、人類の始祖であるアダムに対して心酔していたからだ。だがそう話は簡単ではないとカインは考えていた。
《いや…父さんはおそらく、俺達の中でも特に固執しているように俺は思う。おそらく父さんがこの世界に呼び戻したい人物は・・・イブ。俺の母親だ》
《イブ…人類最初の女であり、アダムさまの唯一の妻か・・・》
アダムは生涯、イブだけを妻とし愛していた。アダムとイブは神が定めた本来の夫婦の形・・・一夫一妻の雛形であり、そして人類最初の男と女である。
互いに互いしかいない唯一無二のパートナーなのだ。
そんなイブを現状ではアダムは失っている状態だ。表に出さずともそれは深い喪失感となって彼の心を蝕んでいることだろう。それ故に、彼はどうしてもイブを取り戻したいと願っているに決まっている。
《ダビデ達が提唱する案は確かに朗報だ。だが、それを信じられるかどうかだな。俺は単純だしお前を見込んで信じることにしたが、父さんとダビデ達がどれほど信頼しあえているか・・・あっさり乗ってくれるとは思えねぇんだよな》
カインの意見に頷くユダ。確かにその通りだろうと考えていたのだ。
《君は単純だから助かったよ。まあ君のそういうところは僕も嫌いでは・・・おっと、今はこんなこと話してる場合じゃなかったね。とにかく僕らは僕らでできることをしようじゃないか》
《そうだな!よろしく頼むぜ!兄弟!》
こうして彼らは話し合った結果、まずは聖書転生者の中で一番穏やかな性格のイサクを味方に引き入れようと決めたのだった。
***
その頃、イサクは一人静かに考え事をしていた。
(私はどうしたいんだろう?)
彼は迷っていたのだ。元々争い事は好まない性質だった。だが現状は仲間同士で分裂し、そして女神に従うことを決めたものの彼もカインと同じく心が擦り切れていく感覚を覚えていた。
だが仲間を裏切るわけにはいかない。だから黙って従うことを選んだのだが・・・。
「やっぱりダメだなぁ・・・」
一人でいる時だけは弱音を吐いてしまうイサクであった。
そんな姿を見つめる影があることなど知る由もなくーーーー