140 差し伸べられる手
ダビデ達はユダの提案に乗り、カイン達をこちら側に引き入れることにした。そのためにはまずはユダによる説得が必要だと考えたダビデ達だが、簡単に信じてもらえるかわからない。
だがユダには考えがあるようだった。
(女神派の内情は我々にはわからない…今はユダ殿を信じるしかないな)
そう心の中で思うダビデ。
だがその表情からは不安や焦燥といった感情は見受けられなかった。むしろ自信に満ち溢れているようにも見える。
分裂してしまった仲間を取り戻す。その思いが強いのだろう。
(頼んだぞ、ユダ殿…!主よ、どうか我々をお守りください)
ダビデは祈るような気持ちで天を仰いだーーー
***
一方、女神派についているカインは自分の本心に必死で蓋をしながら、女神セナムーンが命令した奉仕活動をこなしていた。
そのことで人々に感謝され満足感もあったが、同時に罪悪感に苛まれてもいた。
(おそらくこれは布石だ・・・あの女神は何を企んでやがるんだ?嫌な予感がする…次は何をやらされるんだろう)
しかしいくらそう思っても、今更やめることはできないのである。何故なら自分はあの女神に忠誠を誓ってしまったのだから……と彼は自分に言い聞かせた。
他の聖書転生者の仲間達も、おそらく同じ懸念を感じながらも任務をこなしているようだ。
(一番最初に…あの女神に従ったのは俺だ。みんな自分の意思で決めただろうけど、あの時空気を破ったのは俺…だから俺が最後まで責任を取るべきなんだ!)
彼は必死にそう思い込もうとするも、心の歪みは日に日に増していく一方だった。
《カイン》
その時、脳内に男の声が響く。
その声はよく知っている声だった。
《ユダ……?》
声の主の名を呟くが本人は見当たらない。彼の異能である念話だと理解する。つまり内緒の話がしたいのだろう。
ユダは言葉を発することなくカインの脳内で囁くように告げる。
《君を迎えに来たんだよ》
「えっ!?」
予想外の発言に思わず大声を出してしまうカイン。慌てて周囲を見渡すも誰もいないようだ。そのことに安堵しつつ、彼は脳内を通しユダと話すことにしたのだった。