138 ユダの思い
情報を秘密裏で共有するための方法を模索していたソロモンの元に突然コンタクトを取ってきた、女神側についているはずのユダ。
ソロモンは驚きながらも冷静に彼の話に耳を傾けることにした。
ユダの異能である「念話」を使い脳内通信を行う2人。これにより離れた場所にいる相手とも意思疎通が可能となっている。
《ユダ殿……どうして僕にコンタクトを取ってきたんだ?何かあったのかい?》
《………今、僕達はあの女神に命令されて奉仕活動を行っている。慈善行為ではあるがおそらく何かの布石だと思われる。みんな、何も言わず活動しているが……カインは本当は苦しんでいると僕は思う…》
その言葉に息を呑むソロモン。
自分とダビデ、そしてヤマトは対抗派となり彼らと分裂したので、彼らの動向は知ることはできなかった。だがユダから彼らの近況を知らされ、複雑な気持ちを抱いたのは確かだった。
《そうか……やはり警戒するのは当然だろうね。ありがとう、打ち明けてくれて》
おそらく話はそれだけではないだろうが、彼から交信を切られると念話はできないのでソロモンは慎重に言葉を選ぶ。
一体彼は何を伝えようとしているのだろうーー?
《僕はあれからずっと考えていた。……僕がこの世界に呼び戻したい人物……それは主…イエス様なんだ》
《!!》
やはりそうだったのか…ソロモンは納得したように頷く。彼はキリストを裏切ってしまったが最期はそのことを後悔して自死してしまったほどだ。本当は深くキリストを敬愛していたに他ならないだろう。
《再びあの方に相見えるなら、どんなことをしてもいいと思った。だけど………》
そこで一旦言葉を区切るユダ。だがすぐに続けるように言葉を紡ぐ。
《あの御方は……再び人間として生まれる必要などもうないと思う。神の御子である御方なのだから・・・》
そこで沈黙が訪れる。直接会話しているわけではないからわからないが、おそらく彼は今涙を流しているのだろうとソロモンは推測した。
(そうか……再び会いたいという自分の願望より、キリストのためを思う気持ちの方が強いんだね)
彼は生前、裏切り行為を働いてしまった自分を悔やみ懺悔していたことを思い出した。そんな彼だからこそ、今度こそ主の幸せのために尽くすことができるのかもしれないーーーそう思った瞬間だった。
《そうか………。ありがとう。打ち明けてくれて。ユダ殿……貴方は、もしかして我々対抗派についてくれる気があるんじゃないか?》
ユダはソロモンの言葉に動揺したのか一瞬だけ言葉が途切れるも、すぐに返答があった。
《ああ。主をこの世界に復活させる必要がないのであれば、僕があの女神に従う理由はない》
《ユダ殿…!ありがとう。喜んで歓迎するよ》
女神迎合派だったユダが対抗派に仲間入りしたことは大きな戦力アップに繋がるに違いないと確信めいたものを抱くソロモンであったーーー