136 擦り切れていく心
その夜私は、帰宅したダビデに今日の出来事を話すことにした。
「今日、偶然カインさんに会ったんだ」
「え…!?カイン殿に?」
予想通りの反応をする彼に苦笑しながらも頷く私であった。
「カインさん、前と変わってなかったよ。自分達にはどうしても譲れないものがあるけど、ダビデ達のことは今も仲間と思ってるって」
私はカインさんの思いを彼にわかってほしくて必死に言葉を紡ぐ。
「そうか……」
そう言った彼の表情はどこか嬉しそうでもあった。きっとダビデも、カインさん達を今も仲間だと思ってるからだと私は思った。
(でも……カインさんは確かに前と変わってないけど、心なしか前ほど明るくない気がするんだよね……)
ふと湧いた疑問を口にするか迷ったけれど結局やめることにした。余計なことを言って心配をかけたくなかったからだ。
(本当は無理してるのかな…だって、あの女神に従わないといけないんだもん。大切な人を蘇らせる代償に・・・)
結局あの女神がやってることは脅しのようなものだ。彼らの純粋な気持ちを利用しているのだと思うと許せなくなる。
そんなことを考えながら悶々としていると、不意にダビデから声をかけられたので驚いてしまった。
「どうした?何か考え事か……?」
そんな私を心配して声をかけてくれるあたり本当に良い人だと感じると同時に申し訳なく思う自分がいることに気づくのだった。
(カインさん達が女神に従わなくても、大切な人をこの世界に呼び戻せる方法さえあれば・・・一件落着なのに……)
思わずそんなことを考えてしまう私だった。
***
場面は女神迎合派の方へと移る。
アダム達は女神に従うことを余儀なくされたが、まず最初の仕事として指令を与えられたのは「奉仕活動」だった。女神が予め告げていたように誰かを傷つける必要もなくむしろ役立つ行為ばかりだったので彼らは安堵したものである。
だがーーーこれで終わりとは思えない。おそらく布石としての行いなのだということは彼らにも想像がついたのである。だからこそ気を引き締めなければならないと思っていたのだが・・・。
「…………」
カインは表面上は明るく振る舞ってもどこかで心が擦り切れていっているような感覚に襲われ始めていた。だがその感覚に蓋をするしかないのだった。
そんな彼を無言で見守るユダだったが彼はあることを考え始めていたーーー