130 1人じゃない
「この世界に呼び戻したい人ーーか。正直に言うと、親友の顔が一瞬浮かんだ。死に別れてしまった親友のことが、な……」
戦死してしまい死に別れたかけがえのない親友だったヨナタン王子。
もし誰かと言えば彼なのだと思う。だがーー
「へえ。妻や側室ではないんだね」
「はは…当時は国を繁栄させ多くの子供を持つために複数の妻や側室を迎え入れた。みんな愛してはいたが、結局は誰とも温かい家庭を築くことはできなかった。情けないが、この世界に呼び戻したいと思えるほど特別な存在はいないな……」
そう答えて自嘲気味に笑うダビデに対し、ソロモンは静かに語りかけるのだった。
「そう。実は僕も同じなんだ。生前はそれは多くの妻や側室を持った。だけどアダム殿やヤコブ殿のように、最愛の女はいなかったな」
「……」
ダビデは黙って聞いていた。
アダムが聖書転生者達に重婚禁止令を発動し、それは彼らの神が本来は一夫一妻を尊ぶ教義であることに由来するためだ。
なぜアダムが重婚を禁止すると宣言したのか、自分達を振り返ってみてもわかるような気がした。
(あの時の我々は・・・仲間意識を共有し一つに団結していた。それなのに今はこんなことになるなんて……)
聖書転生者達で親睦会をしたり、みんなで集まって和気藹々としていた頃がすでに懐かしいとさえ思ってしまう。
本当に心から笑えていたような気がするのだ。
ダビデは思わず感傷的になり黙り込んでしまう。
(みんな………。主への信仰心は他の神に搾取され、さらに仲間まであの女に取り込まれてしまった。それでも・・・私は・・・)
ダビデがそう心の中で葛藤していた時ーーー
《あなたはまだ諦めてないのか》
「えっ!?」
どこからか声が聞こえた気がした。
そしてそれは聞き覚えのある、いや、忘れることなどできない声であった。
(主……貴方は主なのですか?主……!)
だがその声はそれ以上聞こえることはなかった。
それでもダビデには十分すぎるほどの救いとなったようだーーー
(そうだ、諦めるわけにはいかない!このままあの女の思い通りにはさせんぞ……!!)
ダビデは決意を固めた表情で拳を握りしめ、ソロモンを真っ直ぐに見据えこう言った。
「私は諦めない。最後まで抗うつもりだ。お前はどうだーー?」
その問いに対して彼は即答した。
「呼び戻したい人間もいないことだし……それに僕だって諦めるつもりはないさ。一緒に抗おうよ、父上!」
それを聞いて安心したように微笑むダビデ。
2人は改めて手を取り合い協力することを誓い合うのだったーーー