129 苦悩するダビデ
女神セナムーンは、聖書転生者達が何よりも望むものーーー1人だけをこの世界に転生させるということを取引条件にして彼女に従わせることにしたらしいのだがーーー
その結果、聖書転生者達は2つに分裂してしまうことになったのだった・・・。
今まで通り女神に抗うと決めたのはダビデ、そして私だけ。
ソロモンさんはどっちにつくのかわからない様子だったけどーーー
残り全員が女神側についてしまった。
こうして私達は分裂する羽目に陥れられてしまったのだった。
(ダビデ・・・・)
私はダビデ側だけど……せっかくかけがえのない仲間ができたのに、彼はまた1人で戦うつもりなのだろうかと思うと胸が苦しくなった・・・。
もう私達には服従するしか道は残されていないのだろうか?
(だめだ…ダビデはまだ諦めてなんかいないんだから)
出会った時から、彼は光のような存在だった。
この人についていきたいーーそう思わせるほどに強く輝いていたのだから。
(私だけでも、あなたの味方だから。1人じゃないよ、ダビデ・・・)
そんな想いを込めて、私は彼を見守り続けることに決めたんだーー
***
場面はダビデ視点に移る。
ダビデはサンクチュアリ王国の城へ出向き、騎士団へ指導の仕事をこなしていた。
彼は真面目な性格なので自身の任務に忠実に、そして一人一人の騎士達に丁寧に教え込んでいたのである。そうして仕事に没頭している時は何も考えずに済んだからどこか楽だった。
「ふう……これで一段落かな」
一通りの訓練を終えて一息つくとーー
ふと窓の外を見ると、そこには城下町の風景が広がっているのが見えた。
一見街の中は平和に見えるが、魔物の脅威にさらされていることに変わりはなく人々は不安な日々を過ごしているのだろうと思う。
(この世界の人々のために私の力や資質を使い、何ができるか考えたい。そう思っていたが、今の私は自分のことすらままならない状況にあるからな……)
そんなことを考えながらぼんやりしているとーーーー突然背後から声をかけられた。
「やあ、父上。仕事は終わったのかい?」
振り返るとそこには息子のソロモンが立っていた。
「ソロモン……」
この前のことがあったので2人は神妙な顔で少しの間見つめ合っていたがーーーー先に口を開いたのは彼の方だった。
「父上は、この世界に呼び戻したい人はいないの?」
遠回しではなく直球の問いにダビデは少し戸惑いながら答えるのだった。