116 女神セナムーンの提案
セナムーンの言葉を聞いて、私たちは一様に困惑した表情を浮かべていた。
そんな私達の様子を見た彼女はおかしそうに笑うと言った。
「あらぁ……どうしたの?もしかして私の言ってることが理解できないのかしら?」
その問いに答えられる者はいない……いや、答えることができなかったという方が正しいだろう。
だっていきなりそんなことを言われても理解できるはずがないのだから……。
だけどダビデは声を絞り出すようにしてセナムーンにこう告げた。
「信仰心を捧げろだと……?断る。我々が信仰するのは主だけだ!!」
ヤハウェさま以外に信仰を捧げるなんてダビデ達にとってありえない話だということは私にも分かる。
だけどセナムーンはなぜかそれを聞いて一際嬉しそうに微笑んだのだ。
まるでその言葉を待っていたと言わんばかりにーー
「そう。それよ。私が欲しいのはその無垢な信仰心……やはり聖書の人物達の信仰心は素晴らしい。ふふ…まあ最後まで聞きなさい」
うっとりした顔で語る彼女に若干引きつつも黙って話を聞くことにしたようだ。
「貴方達が信仰してる神をこれまで通り信仰しても良いの。信仰心とはね…美しい珠のようなもので想いが結晶化されたものなのよ。だから貴方達が今まで信じていたものをそのまま信じ続けても構わないわ」
それを聞いたダビデ達は安堵したような表情を浮かべるが、すぐにハッとした顔になると警戒を強めた。
ソロモンさんは険しい顔で尋ねる。
「つまり貴女が欲しいのはその結晶化された珠のようなものだということかな?」
「ええ、そうよ!信仰心の珠はこの世界の神にとって力となるものなの」
そこで一度言葉を切ると意味深な笑みを浮かべる彼女だったが、ダビデは睨みつけながら拒否の言葉を口にする。
「ふざけるな。我々の主への信仰心を捧げろというのか?主への信仰は主だけのものであり他者に渡すものではない!」
その言葉を聞くと残念そうに眉を下げるセナムーンだったけどすぐに気を取り直したように笑顔に戻ると口を開いたのだった。
そしてこれまでと急に人相が変わったかのように不気味な笑みを浮かべ、残酷な言葉を宣告したのだったーー