108 揺れる乙女心
「あ、ダビデ!えっと、ちょっと着替えてみたんだけど…」
普段とは違う女らしいワンピース姿を着た私はダビデに見られたことが恥ずかしくて、慌てて取り繕おうとする。
しかしそんな暇もなく、近づいてきたダビデは不思議そうに言った。
「なんだ、その格好。女みたいで変だぞ」
おかしそうに笑いながら言う彼の言葉に、ショックを受けてしまう。
(ああ、やっぱり似合ってないんだ……ダビデから見てもそうなんだ……うう、つらいよ……)
本当は泣きたくたなりそうだが必死で笑顔を作り舌を出す。
「え、えへへ…ソロモンさんが、この服くれたから…」
「そうだったのか。全くあいつは。無理してあいつに付き合わなくてもいいぞ」
ダビデは、私の中身は男だと思っている。
だから変だと言ったのだろう。それはわかっているが、期待した分だけ心は傷つき、悲しくなる。
(違う、そんなことが言いたいんじゃない)
そう言いかけた言葉を飲み込んで、笑顔を崩さないよう必死に耐える。
ここで泣いたら不自然すぎるし、ダビデにも嫌われてしまいそうだと思ったからだ。
「わ、私。この服返してくる!」
私は逃げるようにその場を立ち去る。
今は一緒にいたくなかったからだ。それに今にも泣いてしまいそうだったから。
とにかくその場を離れたかったーー
「ふ…う、うう…」
頰に涙が伝うのを感じる。涙が溢れてきた。嗚咽を堪えながら静かに涙を流す。
(馬鹿みたいだな、私…。わかってたことなのに、傷つくなんて)
自分が惨めで仕方なかった。
私は元の世界でずっと男として生きてきた。それなのにいきなりこんな女の格好をして浮かれていたのだ。
恥ずかしい…。
ダビデの前で醜態を晒してしまったのだ。
それでもーーせめて今日くらいは褒めて欲しかったなと心の中で思うのだった。
「ヤマトちゃん」
そんな私を後ろからそっと肩に手をかけたのはーーソロモンさんだった。
「あ……」
「いいんだよ、何も言わなくて。他には誰もいないから泣いてもいいと思うよ」
ソロモンさんは優しい声でそう言いながら、後ろから寄り添ってくれる。
泣き顔を見られたくないと思っていたのに、彼の優しさに触れていると自然と涙が溢れてきた。
そして気づけばソロモンさんの胸の中で思いっきり泣いていた。
そんな私の頭を撫でながらソロモンは言った。
「君は強い子だね。辛かっただろう。よく頑張ったね」
そう言って抱きしめてくれているソロモンさんの手はとても温かい。
(本当に優しいな、この人ーー)
私はそう思いながらしばらくの間涙を流し続けた。
やがて落ち着いた後、ゆっくりと体を離すと彼は微笑んだ。
「ありがとう、ソロモンさん。迷惑かけちゃってごめんなさい……」
私はそう言って謝罪する。
ソロモンさんは首を横に振った。
「いいんだ。それよりも君が元気になってくれる方が嬉しいよ」
その言葉を聞いた瞬間、胸がドキッとする。
(やば……こんな時にときめくとか私ってチョロいな〜もうほんと最低じゃん)
自己嫌悪に陥っていると、ソロモンさんは追い討ちをかけるようにこう囁いた。
「そのドレス着てくれたんだね。君によく似合って可愛いよ」
耳元で囁かれ、顔が熱くなるのがわかる。
(ううう、またこの人はこうやってすぐ人をからかってくるんだから!ずるい人だ!)
そんな私の心の声は、当然誰にも届くことなく消えていくのであった……。