103 キリストを裏切った男
「イスカリオテのユダとは……キリストの12使徒の1人のはずだ」
驚愕したような声をあげたソロモンさんを横目で見て、興味なさそうにユダさんは言う。
「へえ……僕を知っている人間もいたんだね……」
ああそっか、彼は自分の名前にも頓着しないタイプの人種なんだなと理解した私だった・・・。(まあ自分もあんまり関心ないけど)
ユダさんは無表情のまま淡々と語り始めるのだった。
「僕が仕えていたのは他でもない、キリストその人だよ・・・」
「イエス・キリスト…私の子孫であり主の子供だという救世主のことか…!」
ダビデの呟きにピクリと反応するユダさん。
悲しそうに目を伏せる彼の表情は憂いを帯びていたーーー
まるで悔いているような表情に見えてしまうのは気のせいなのかな?
(きっと、彼にとってのイエス様はかけがえのない存在だったんだろうなあ・・・)
そんなことを考え、しんみりしているとーーー
空気を読めないようにカインさんが明るく声をかける。
「ま、自己紹介はこんなもんにして飯食いに行こうぜ!」
思わずポカンとしてしまう一同。
そんな彼を白けたような目で見つめるユダさん。
意外と良いコンビなのかもしれないなあこの二人・・・と思ってしまう私だった。
カインさんの提案で、近くの食堂に移動し食事をとることにする私達。
食事をしながらお互いのことを話して情報交換を行った。
時代を越えてなぜか死後にこの異世界に来ていたこと。
現代人だった私以外はみんな「聖書」に登場する人物達だということ。
それらをカインさんとユダさんにも共有したのだった。
「死んだはずなのに元の世界と違う世界に飛ばされたってことだろ?不思議なこともあるもんだなー!」
「僕も最初は驚いたよ……まさかこんなことになるとは夢にも思っていなかったから」
2人は驚きながらも冷静に受け止めてくれたようだ。
ソロモンさんが2人に質問をする。
「あなた方もどうやってこの世界に来たかわからないということかな?我々もそうだが」
「うん……僕達もなぜここに来たのかは不明だ。ある日いきなりこの世界に飛ばされてしまったからね」
ユダさんは静かにそう語るのだった。
「そうか…。僕達が突然この世界に来たのは、おそらくルシファーと戦った時に現れた謎の女ーー自分をこの世界の神だと名乗った女の仕業に違いないだろうね……」
ソロモンさんのその言葉を聞くと2人は目を見開いて驚いていた。
「この世界の神!?ヤハウェさまじゃない神がいるっていうのか!?」
信じられないというように声を上げる2人。
聖書の世界で信仰されている神はヤハウェさまだけだもんね。
「そのことについてなんだがーー僕の推測を話そうと思う」
徐にソロモンさんが口を開く。その表情からは何かを決意したかのような意志の強さを感じさせた。
私達は黙って彼の話を聞くことに決める。そして彼の言葉に耳を傾けることになったのだった。