9 ソロモンの指輪
なぜか突然、ダビデからキスされてしまった私。
いくら肉体は女だからって、元の世界では男だったと彼も知ってるのに。
だけど彼にとっては女という認識なのか?
どうしよう!どうすれば良いんだぁあーーッ!!!???
混乱のあまり脳内パニックを起こしていると、不意に唇が離れた。
それは唇が触れるだけの挨拶のようなキスだった。
彼は優しく頭を撫でて、こう言った。
「いつもありがとう」
その言葉を聞いた瞬間、私の心に温かいものが広がった気がした。
もしかして私のことが好きなのかな……?
そう思ったけど、なんだか恥ずかしくて聞けなかった。
結局その日はそのまま寝てしまったけどーー
翌朝、ダビデは全くいつもと変わらず、昨日のことは何だったのかと思ってしまうくらい普段通りだった。
(酔ってただけ?ああ、でも…ファーストキスが…)
複雑な私なのだった。
一方、ソロモンの方はと言うと異世界生活を満喫していた。
元の世界も楽しかったが、異世界にある魔法や魔道具など未知のものは興味深く楽しいものだった。
そんなある日のことだった。
「うん…?あいつら。僕の配下だった奴らだ」
ソロモンの視線の先にいるのはーーかつて自分の部下であったはずの悪魔達の姿だった。
悪魔達は気付いていないようだ。
「あれはソロモン72柱と呼ばれた悪魔達だ。ほう…ソロモン72柱もこっちに来てるのか。なるほど、なるほど。なるほどね♪」
顎に手を当ててソロモンは考える仕草をした。
ソロモン72柱ーー
古代イスラエル時代、ソロモンが神ヤハウェより与えられた指輪《ソロモンの指輪》によって召喚できる悪魔達の総称だ。
その指輪の契約は絶対的でソロモンは彼らを配下にし、服従させ支配することが出来た。
彼らはソロモンに逆らうことが出来ない制約があるのだ。
偶然にもソロモン72柱の悪魔の一部を見かけたソロモン。
その目はまるで獲物を見つけた獣のように鋭く輝いていた。
「僕は王だった時に妻は700人、側室300人いたが、全員の顔も名前も好きな体位も覚えてるんだよね」
そう呟くとニヤリと邪悪な笑みを浮かべるソロモン。
「ソロモン72柱。君達のことも覚えているよ。全員ね」
ソロモンは何かを企むように不敵な笑みを浮かべ、その場を立ち去ったのだった。
その頃ダビデはーーー
(何だ?何だか嫌な予感がする)
胸騒ぎを感じていた。だがその正体までは分からなかった。
ソロモンの指輪は有名ですが、聖書の正典には出てきません。ソロモンと悪魔の関係については聖書の偽典である「ソロモンの遺訓」に載ってるようです。ソロモンの遺訓には、ソロモンが悪魔たちを尋問して命令する描写が続き、ソロモン無双状態です。ソロモン72柱は魔術書が元ネタだといわれてます。