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3分で読めるSS No.1『痛みを忘れない国』

作者: 外来酒

「やあ、旅人さん。我が国へようこそ!」


「ここはどんな所なのかって?」


「ここに住む人たちは『痛みを忘れない』、素晴らしい人たちばかりの国さ」


「少しだけ話を聞いてくれるかい?」


「私の一族、××××族は、何年以上も前から迫害を受けてきたんだけど、それはそれは酷いものだったのさ」


「我々の民族ってだけで学校の入学を認めてくれなかったたり、警察の対応が他の民族と違ったり、挙句には仕事も自由に選べず、人が進んでやらない仕事を押し付けられたりさ」


「その迫害の理由だって、とても昔に偉い人をとかって祖父が言ってたなあ」


「今を生きている我々は何もしていないし、何の罪も無いというのにね」


「それでも我々は勤勉に働いた。逆境に負けず成果を残したもいる。それはそれでまた癪に障ったろうね」


「しかし、勤勉で優秀な我々だけど、迫害によって子供の学力に影響が出てしまったんだ」


「親の収入が十分とは言えず子供が仕事を手伝うから学校に行けなかったり、教科書を買うお金や授業料を払えなかったり」


「迫害がなければ、一般生徒と同等もしくはそれ以上の成績を治められただろうに」


「まあそれも昔の話さ。今では国のお偉いさんも過ちを認めて、迫害によって生まれた格差を是正してくれているんだ」


「例えば、教育制度とかね。学校の入学者を決めるときに、我々××××族を含めたすべての入学希望学生を入学試験の点数だけで判断するのでは、我々は不利になってしまう」


「今まで与えられていた勉学の環境が違うからね」


「そこで、その格差の是正のため、××××族の学生に関してはテストの点数を底上げしてくれることになったんだ」


「当然だよね。機会が均等ではなかったのだから」


「その他にも、全学生のうち何%かは××××族を在籍させなければならないようにしたりね。これらは企業でも同じさ」


「そうすることでやっと我々は、彼らと同じところに立てるようになったのさ」


「けれど残念なことに、まだ我々のことを嫌いな奴らもほんのちょびっといる」


「例えば、『どうして僕より点数の低い××××族が優遇措置のおかげで入学できたのに、そいつに枠を割いたせいで合格点を超えている僕は入学できなくなった!』って喚いたりしている奴がいたりする」


「我々の苦しみを考えればそのくらいの優遇策は当然だよ」


「今では我々に対して狼藉を働こうものならすぐ袋叩きさ。警官だって我々に関わるのをためらう」


「これまでは我々が袋叩きにされていたのだから、多少のものごとは目を瞑ってもらわないと。彼らが我々にして来たことに比べれば些細なものさ」


「中には『××××族が他の民族に比べて優遇されすぎている現状はおかしい』だの『もう十分に是正はなされた』だのと言う奴もいるけど過去の過ちを忘れず、かつ繰り返さないためにも制度は存続するべきだろうね」


「挙げ句の果てには『是正開始以降に生まれた我々は××××族を差別したことなどないのに、是正開始以降に生まれた我々を縛りつけるような制度はおかしい』なんて言いだす奴までいるよ」


「この国には教育や就職の機会を不当に奪われた××××族がまだまだたくさんいて、是正を止めることは××××族を再び見捨てることと同義だというのに!」


「・・・話が長くなったね。我が国へようこそ!歓迎するよ」


「ここに住む人たちは『痛みを忘れない』、素晴らしい人たちばかりさ」

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