第79話…文句があるなら僕に言え!
森妖精ユリリネストは、一枚の羊皮紙を出すと円卓の上をゲルタに向かって滑らせた。
ゲルタと隣のクラージュが、それを見ると羊皮紙には片刃剣のスケッチが描かれていた。
「それは小鬼大王の剣のスケッチだが、その剣を遺跡から見つけ出して来たのは闇妖精…お前だな?」
ユリリネストの質問…いや詰問にゲルタは答える。
「コンコーネだったか?
魔導士から依頼されて西の遺跡から見つけてきたのは事実だ」
そのゲルタの答えに、鉱妖精の戦士長バザルトが卓を激しく叩き叫んだ。
「薄汚い闇妖精がっ!!
全て貴様の仕業かっ!!
小鬼の大王を復活させて我々を滅ぼそうとで企んだかっ!!」
バザルトは口から唾を飛ばしながら叫び、円卓の上の地図を示す。
その地図には現在判明している小鬼の被害を受けた街や村に印が付けられていた。
「見ろ!!これだけの街や村が小鬼に滅ぼされた!!
全ては貴様の思惑通りな!!」
ゲルタが悪いわけでは無い。
遺跡などから魔法具を探してくるなんて依頼は珍しくない。
この場にいる冒険者たちも一度や二度は似たような依頼を受けた事があるだろう。
魔法剣を見つけ出して来た事、それをコンコーネに渡した事。
それを責められる云われ等ないはずだ。
責任があるとすれば受け取った魔法剣を使って小鬼大王 を復活させた魔導士コンコーネにであって、ゲルタにでは無い。
それでもバザルトの罵声は止まらない。
鉱山を襲われ、部下を殺され、居住区に立て籠っている仲間の安否も分からない。
その憤りをぶつける相手が欲しいから、相手は闇妖精だから、そんな理由でしかない罵倒の叫び。
その場の騎士たちも冒険者たちもバザルトを止めない。
敵対種族である闇妖精など庇う必要は無いから…
ダンッ!!
再び卓を激しく叩く音が響いた。
バザルトは口を閉じ、卓を激しく叩き立ち上がった少年を睨み付ける。
立ち上がったクラージュはバザルトを睨み返す。
この場で一番下っ端なのは自分だ。
そうクラージュは理解していた。
この場に集められた者たちは支配階級である貴族や騎士たち、クラージュより年齢も経験も上の熟練冒険者たち。
貧民窟出身のCランク冒険者の少年が意見出来るような相手じゃない。
そんな事を理解出来ないほどにクラージュは間抜けではなかった。
それでもクラージュは立ち上がり叫ぶ。
「『闇の後宮』の頭目は僕だ!!
依頼を受ける事を決めたのも、プブリ・コンコーネ氏に剣を渡したのも僕だ!!
そして!!」
クラージュは、隣で驚愕の表情の浮かべているゲルタの顎をクイっと軽く持ち上げると、その場の全員に見せつけるようにゲルタに口付けした。
そしてクラージュは宣言する。
「ゲルタは僕のモノだ!!
文句があるならゲルタではなく、僕に言え!!」
そう叫びバザルトを睨み返すクラージュ。
それに対してバザルトは再び罵声を上げる。
「では貴様は、これだけの被害の責任をどう取るつもりだ!!」
バザルトが示す地図。
滅ぼされた幾つもの街や村。
ベルグ鉱山を取り戻せても、小鬼たちに破壊された諸々の施設を再建するには金も労力もかかるだろう。
その被害をクラージュ個人にどうにか出来るわけもない。
何も答えられないクラージュの右隣から声がした。
「種族により常識は違うとは聞くが鉱妖精は、そのように考えるのか?」
そう発言したのは領主代行ベアトリス・エールワーズ。
「では、ベルグ鉱山の工房で鉱妖精が作った武器で殺された者に対する責任は、その武器を作った鉱妖精がとってくれるのだな?」
ベアトリスは無邪気とも言える声音でバザルトに確認する。
「それは…」
悪いのは武器を作った者ではなく、その武器を使った者だ。
それは当たり前の事。
小鬼大王の剣に対しても同じ事。
悪いのは剣を見つけ出してコンコーネに渡したクラージュでもゲルタでも無い。
バザルトは唸り黙り込む。
「さて、ベルグ鉱山奪還作戦の話に移らせてもらうが」
話を変えるためにユリリネストが発言した。
「まずアシュール公爵家の騎士隊には、鉱山に正面から攻撃を仕掛けていただく。
もちろん、これは陽動だ」
騎兵の機動性も歩兵の集団戦術も野外でこそ力を発揮する。
「次に鉱山内部に繋がる複数の隠し通路から冒険者が突入。
鉱山内に残った小鬼の駆逐と陽動をしてもらう」
迷宮探索などで坑道のような場所での戦いに慣れている冒険者たちが鉱山内に突入し小鬼たちの戦力を分散させる。
ユリリネストは鉱妖精のAランク戦士ズヴェズダに目を向けた。
「最後に、攻撃の本命であるバザルト戦士長殿たち2名とズヴェズダの一党『移動防壁』が突入して、小鬼大王の首を取る」
小鬼大王の首級を上げた者が一番手柄になる。
鉱妖精たちに、それをやらせる事で、鉱妖精が自力で鉱山を奪還したという形にするため。
そして鉱山内のような場所での戦いでは『移動防壁』こそが当代最強の一党だから。
「さて、問題は小鬼大王が鉱山内の何処に潜んでいるのか見つける方法だが…」
ユリリネストは、数枚の巻物を取り出して見せた。
「これは失せ物探しの魔法の巻物だ。
これを使えば、正確な形を覚えている物の位置が解る」
そして、ユリリネストは、ベアトリスから冷たい視線を向けられ脇腹をツネられているクラージュを見る。
「小鬼大王の剣の形を正確に知っているのは回収してきた君たちだけだ。
つまり君たちが『移動防壁』の案内役になるんだ」
「うぇひ?」
ユリリネストの言葉にクラージュは妙な声を上げた。




