第78話…円卓
円卓という物は、そこに座る者は対等であり上下関係は無いという事を示すための卓である。
しかし、それは建前であり実際には身分や立場により座る場所が決まり、上下関係を表す事になる。
アシュール公爵家城郭内の会議室に通されたクラージュは一番立場が低い者の席を選んで座った。
そのクラージュの左隣に座るのは闇妖精のゲルタ。
今回、城郭に呼び出されたのはクラージュとゲルタの2人。
(場違いだよな…)
クラージュは円卓につく面々を見て、自分たちが場違いだと思う。
一番の上座の席が空いているのは領主代行ベアトリスの席だからだろう。
それ以外の席には、ストン・プーナー騎士隊長を始めとする騎士隊の重鎮。
冒険者の中でも最上位と言えるAランク冒険者たち。
『深緑の賢者』の二つ名を持つ女森妖精の魔導士ユリリネスト。
鉱妖精だけで構成された珍しい一党『移動防壁』の頭目の戦士『壊し屋』ズヴェズダ。
城塞都市アシュールの法典神殿の副神殿長を兼任する司教『法の番人』チェザレ。
他にも城塞都市アシュールを拠点とする名うての冒険者たちの姿がある。
クラージュには見覚えがない鉱妖精が2人居るが、座っている席からしてアシュール公爵家にとって大事な客人のようだった。
そんな面々の中でCランクになったばかりの冒険者クラージュの存在は浮いている。
ゲルタの事を知らない騎士たちと客人らしい2人の鉱妖精から、闇妖精を敵視する視線が注がれ、クラージュは首を竦めるのだが…
当のゲルタは敵意の視線など何処吹く風といった様子で、これ見よがしに奴隷の証の首輪を弄った後、クラージュにしなだれかかって見せる。
その様子に、騎士たちからクラージュに対して『場をわきまえろ』という無言の圧力が飛ぶ。
(帰りたい…)
冷や汗をかき、ひたすら帰りたいと思うクラージュの後ろの扉が開き侍女が領主代行ベアトリスの到着を告げる。
全員が席を立ち、礼を持ってドレス姿で着飾った領主代行ベアトリスと側近中の側近である老魔導士セバスティアーニを迎える。
そこまでは普通の事だったのが、次に奇妙な事が起きた。
円卓を見渡した領主代行ベアトリスが上座ではなく、クラージュの右隣に座ったからだ。
儀礼的にあり得ない事態に騎士たちは目を白黒させ、老魔導士セバスティアーニは1つタメ息を吐いて自分が上座に座った。
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「ベルグ鉱山が1000匹を越える数の小鬼に占拠された。
儂の同胞たちは鉱山内の要塞化された居住区に立て籠っているが、いつまで持つかは解らん」
そう説明を始めたのは戦士長バザルトと名乗った客人の鉱妖精。
もう1人の鉱妖精は斥候のダンという名前らしい。
「居住区が墜ち小鬼に制圧された場合、備蓄されている食料や武器が小鬼の手に渡る事になる。
そうなれば小鬼どもは一年以上の籠城が可能な物資を手に入れるだろう」
アシュール公爵領の重要施設であるベルグ鉱山が小鬼の大群に攻められ、これは鉱山奪還のための会議らしい、とクラージュは理解する。
しかし、何故クラージュが参加する事になっているのか?
そして、何故、右隣に座る領主代行様がゲルタに威嚇するような視線を向け、円卓の下でクラージュの太ももを撫でているのか?
(いったい何がどうなってるんだ?)
クラージュの脳内には『?』が大量に浮かんでいた。
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魔導士プブリ・コンコーネの屋敷の地下に造られた魔法工房。
その床には巨大な魔法陣が造られ、魔法陣の中央には頑丈な檻に入れられた小鬼王の姿があった。
威嚇の咆哮を上げ、檻を破壊しようと暴れる小鬼王だが、檻はビクともしない。
「良い個体だ」
実験材料として申し分ない小鬼王にコンコーネは満足そうに頷き、神話の時代に小鬼たちの大王が振るったと言われる魔法の片刃剣を儀式のための台座に乗せた。
そしてコンコーネが長年に渡って研究してきて完成させた呪文を唱え始める。
それは神話時代に存在し、現在は失われた上位種に小鬼を変化させる呪文。
魔法陣と片刃剣が輝き、小鬼王の悲鳴が工房に響く。
コンコーネの目の前で小鬼王の身体が変化していった。
その骨格は軋み大きくなり、全身の筋肉が肥大化する。
身体の急速な変化に皮膚は裂け、全身から血が吹き出す。
小鬼王の身体は破壊と再生を繰り返し、変化していった。
そして…
「おおお…ついに…ついに完成したぞ!!」
コンコーネは目の前の存在に歓喜の声を上げた。
それは、身長は2メートルを越え、全身が肥大化した強靭な筋肉に鎧われた怪物。
「小鬼大王…」
歓喜と共に神話の時代の怪物を見るコンコーネ。
小鬼の最上位種の名を呟いたコンコーネの前で、小鬼王の力ではビクともしなかった檻が悲鳴を上げた。
「グォオォォォォーッ!!」
自分の身体を改造した魔導士への怒りの咆哮を上げ、檻を破壊し飛び出した小鬼大王は片刃剣を掴みコンコーネを真っ二つに叩き斬った。
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殺された魔導士プブリ・コンコーネの調査をしていた森妖精の魔導士ユリリネストは、コンコーネの屋敷に残された痕跡により推理される事件の真相を説明する。
「魔導士コンコーネ師を殺害した小鬼大王は、城塞都市アシュール内を流れる河から外部に逃げたようだ。
その後、他の小鬼の群れに入り次々に仲間を増やしていった」
森妖精ユリリネストは、闇妖精ゲルタに侮蔑に似た視線を送る。
「今回の小鬼の大群を率いているのは、おそらく小鬼大王。
その根拠は、ベルグ鉱山で魔法剣を持った大きな小鬼が目撃されている事と…」
森妖精ユリリネストは闇妖精ゲルタに質問する。
「さて闇妖精、お前たちや猪鬼が小鬼を奴隷として使っているのは知られているが、兵士として小鬼の大軍を編成しないのは何故だ?」
ゲルタもユリリネストに侮蔑に似た視線を送り答える。
「木妖精、その程度は貴様らでも知っているだろう?
小鬼が我々に従うのは、逆らえば殺されるという恐怖や、従えば寝床や食事を得られるという欲からさ。
そんな連中を戦場に連れ出して役に立つか?
戦況が不利になれば一斉に逃げ出すのがオチさ」
木妖精という呼び方にユリリネストは不快気に眉を動かすが、争うのは時間の無駄と判断したようで何も言わなかった。
そんなユリリネストに冷笑を向けたゲルタは話を続ける。
「小鬼が本当の意味で従うのは同じ小鬼だけさ。
我々や猪鬼が支配しようとしても、連中は表向き従うふりをしてるだけで内心じゃ従っていない。
過去に、1000匹を越える小鬼を軍として組織した間抜けは存在した。
そして一瞬で軍は瓦解したのさ」
ユリリネストは結論を話す。
「そこの闇妖精の話の通りで、闇妖精や猪鬼といった闇属性の種族が支配してるなら、鉱妖精の戦士隊が攻めた時点で小鬼は我先に逃げ出してる。
小鬼が逃げなかった理由は、小鬼たちを支配する本物の大王がいたからだろう」




