表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/168

第6話…闇の後宮

 冒険者の店『木漏れ日亭』にある掲示板。


 冒険者たちの情報交換や連絡用として使用されている掲示板は使用料を払えば誰でも使う事が出来る。


 クラージュは、一党(パーティー)メンバー募集と書かれた羊皮紙を掲示板に張り付ける。


 冒険者ランク、保有技能、どちらも不問という内容であり、普通ならば1人、2人はクラージュに話くらいは聞きにくるだろう。


 だが…


 「無駄だと思うぞ」


 張り付けた羊皮紙を見ていたクラージュに話しかけたのは、周りからクラージュの好敵手(ライバル)と思われている戦士(ファイター)ラルフ。


 「何でだよ?」


 「お前、自分の一党(パーティー)が何て呼ばれてるか知ってるか?」


 「えっ?ウチの一党(パーティー)に名前が付いたのか?」


 クラージュは眼を輝かせてラルフに確認する。


 有名な冒険者一党(パーティー)には大抵名前がある。


 有名な例だと、20年程前に最強と呼ばれた『破魔の鏡』、古代魔法王国の遺跡を発見し幾つもの古代魔法を復活させた『六大賢者』、最強の魔獣(ドラゴン)を討ち取った『竜を討つ者たち』など。


 クラージュたちは一党(パーティー)に名前を付けていない。

 つまりはクラージュたちの活躍から周りが名付け広めたという事だろうか?


 それは一党(パーティー)のステータスと言えるだろう。

 そう考えて喜色を表すクラージュにラルフは憐れみの眼を向け、その名前を口にした。


 「『(やみ)後宮(こうきゅう)

 それが最近お前らの一党(パーティー)に付いた名前だ」


 「えっ?闇?後宮?」


 クラージュは、その名の意味を考える。

 闇は人間の街では珍しい…というか、ほとんど唯一の冒険者闇妖精(ダークエルフ)のゲルタが所属してるからだろう。

 後宮とはハーレム。

 

 つまり…


 クラージュたちの一党(パーティー)は、クラージュのハーレムだと揶揄した名前なのだ。


 「元々、若い男が見た目が良い闇妖精(ダークエルフ)の女を奴隷として連れてるなんて身体目当ての奴隷にしか見えないだろ。

 そして他の2人もアレだ」


 露出過多の痴女服のルゥ。

 露出皆無だが身体のラインが丸分かりなエリ。

 共に胸が大きな美少女。


 とどめを刺したのが早朝に下着(パンツ)一枚で彼女たちの部屋から出てきたクラージュの姿。


 クラージュが身体目当てで美少女3人を囲ってハーレムにした一党(パーティー)と誤解されても不思議ない。


 いや誤解されない方が不思議である。


 「そんな一党(パーティー)に入りたいヤツが居るか?」


 男からすれば、クラージュが美少女を侍らせてイチャイチャする様子を見せつけられる一党(パーティー)などに入るわけがない。


 女からすれば、一党(パーティー)に加入する事はクラージュのハーレムに入る事と思って拒否するに決まっている。


 それらを理解したクラージュはガックリと肩を落とした。


 =======


 そもそも、何故このような状況になってしまったのか?

 

 それは、クラージュは冒険者になるために、始めて『木漏れ日亭』を訪れた日まで遡る。


 それは本当に偶然だった。


 冒険者になるためには、冒険者ギルド傘下の店で登録する必要がある。

 

 だからクラージュは『木漏れ日亭』を訪れたのだが、その扉の前で出会ったのが、同じく冒険者になるために訪れた新米戦士のラルフ。


 ここでクラージュかラルフのどちらかが相手に声をかけていたなら、後の展開は変わっていただろう。

 だが現実は、会話はなく店の扉をくぐった2人。

 そして2つ目の偶然が、その時間たまたま店主(マスター)が不在だった事。


 慣れていない雰囲気から、お互いを冒険者志望の新米と感じていた2人は、店内を見渡し冒険者になるための手続き方法を聞けそうな相手を探した。


 ラルフが声をかけたのは低身長で樽のような体型の鉱妖精(ドワーフ)の戦士。

 

 クラージュが声をかけたのは森妖精(エルフ)と思われた女性魔法戦士。


 この瞬間に2人の運命が決まった。

 

 ラルフは自身より数ヶ月先輩だった鉱妖精(ドワーフ)一党(パーティー)を組む事になり、次々と仲間を増やし6人を率いる頭目(リーダー)になる。


 一方、クラージュが話しかけたのは森妖精(エルフ)ではなく闇妖精(ダークエルフ)のゲルタだった。

 人間の街で闇妖精(ダークエルフ)が冒険者をしているなど想像すらしていなかったクラージュは、育ててくれたシシリィと同じ森妖精(エルフ)と勘違いし話しかけてしまったのだ。


 そしてクラージュが気づいた時には、ゲルタはクラージュの奴隷という事になっていた。

 市民権を持てないゲルタは人間の街では魔物(モンスター)と同じ扱いを受ける。


 街中に虎や熊といった猛獣が現れたなら、即座に討伐されるのと同じ。

 闇妖精(ダークエルフ)が人間の街を歩けば、街を守る衛兵やら正義感溢れる冒険者やらが善良な市民を守るために問答無用で斬りかかってくる。


 ゲルタがフードを目深に被って顔を隠し闇妖精(ダークエルフ)と知られないようにしていても、いつ正体がバレるか解らない。

 ゲルタが人間に敵対的では無いと知った木漏れ日亭の店主(マスター)が冒険者として登録してくれたが、彼女を知らない人からすれば魔物(モンスター)扱いなのは変わらなかった。

 冒険者の店の中ならともかく、外に出るには正体を隠す必要があるのは変わらない。

 結果、酒瓶1本を市場で買うのにも難儀していたゲルタ。


 だがクラージュの奴隷という事になれば話は変わる。

 奴隷は財産であるから、他者が傷つけたりすれば犯罪になる。

 まして見目麗しい闇妖精(ダークエルフ)の女の値段など金貨を何枚積むか分からない程に高価であり、傷つけた場合の賠償額はバカにならない。


 目立つ奴隷の証の首輪を付け、名目上クラージュの奴隷になったゲルタは人としてではなく高価な物として法的に守られるようになったわけだった。


 そして闇妖精(ダークエルフ)が参加する一党(パーティー)に入ろうとする奇特な冒険者は、辺境ド田舎の村から出てきた世間知らずの女司祭(プリーステス)と所属していた旅芸人一座が解散して食うのに困った吟遊詩人(バード)くらいしかいなかったのである。


 ======


 一党(パーティー)の酷い名前への現実逃避だろう。

 昔の事を思い出していたクラージュの背後から声がかかる。


 「闇の後宮か…まあ無名より悪名の方がマシか」


 クラージュの背後に立っていたのは、悪名の原因の1つであるゲルタ。


 そのゲルタを姿を一瞥したラルフは、クラージュに話す。


 「俺の一党(パーティー)の雇い主が闇妖精(ダークエルフ)と話をしてみたいんだそうだ」


 「ゲルタと?」


 人間と友好的で話が出来る闇妖精(ダークエルフ)などゲルタくらいだろう。


 「雇い主は魔導士(メイジ)なんだが亜人の研究をしていてな。

 俺の今やってる仕事は知ってるよな?」


 「小鬼(ゴブリン)の生け捕りか?」


 「ああ、それも研究の一貫で、森妖精(エルフ)鉱妖精(ドワーフ)にも話を聞いて回っているそうだ」


 「その魔導士(メイジ)とゲルタを会わせたら実験動物にされたりしないだろうな?」


 「まさか、相手は魔法学院とも付き合いがある魔導士(メイジ)だ、そんなバカな真似はしないさ」


 クラージュは、ラルフが雇い主にゲルタと話をする場を用意するよう依頼されたのかと考える。


 「お前がいいなら『闇の後宮』への正規の依頼として雇い主から店に依頼を出させるがどうする?」


 冒険者の店を仲介して、ゲルタを騙し討ちして捕らえるような真似をしたら冒険者ギルドを敵に回す事になる。


 依頼主が報酬を踏み倒したり騙したりしないように対策するのもギルドの役割。

 その分、仲介料として報酬の一部がギルドに行くわけであるが、ゲルタもギルドに登録した冒険者である以上はギルドに守られる。


 クラージュは背後のゲルタの表情を見る。

 特に不満は無いようだ。


 「じゃあ店に依頼を出すよう雇い主に言っておいてくれ」


 クラージュの答えに頷くとラルフは雇い主の元に向かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ