第13話…少年は英雄でも勇者でもない
大鬼、人食い鬼とも呼ばれる凶暴な怪物。
3メートルを越える筋肉質な巨体は、その姿に相応しい怪力と体力を持つ。
人食い鬼の異名が表すように、肉食な上に人間すら食料としか認識しない習性は、人里近くに大鬼が現れば民草は餌食となるという事。
その戦闘力は並みの兵士どころか幼い頃から武芸を習う騎士ですら1対1では歯が立たず。
単独で大鬼を討伐出来る戦士は一流の技量の持ち主と呼べるだろう。
「大鬼…」
村長から話を聞いたクラージュは考える。
自分たちと同じ遺跡を探して全滅したという冒険者たちは大鬼に全滅させられたのかと。
「一月程前に、この村に冒険者一行が来ませんでしたか?」
クラージュの確認に村長は表情を歪めて答える。
「はい、5人の冒険者の方が来られましたが…
残念ながら大鬼に…」
クラージュは考える。
辺境都市ベベルの冒険者の店で聞いた話では、5人組の冒険者のメンバーは、Cランクの戦士を頭目に、法典神の司祭、盗賊、魔導士、精霊術士で、ランクはCランクとDランクの混成。
冒険者ランクは単純な強さのランクでは無く信用を表すと言っても、真面目で誠実に仕事をする戦士でも受けた仕事を完遂する実力が無ければ信用されるわけが無い。
「ラルフと同程度の技量か…」
『木漏れ日亭』を拠点にする重戦士ラルフとクラージュの戦士としての技量を比較すれば、ラルフの方が1段高い技量だろう。
武装の差を考慮すれば、1対1でクラージュが勝てる可能性は非常に低い。
「このままでは村は滅んでしまいます!
どうか助けて下さい!」
大袈裟な程に村長は頭を下げる。
その姿にルゥがクラージュの袖を引っ張る。
ルゥの方を見ると、村長に同情したルゥが涙目でクラージュを見ていた。
『村長さんたちを助けて上げましょう』
良くも悪くも善人の女司祭ルゥの瞳が、そう言っていた。
クラージュはエリの方を見る。
意見を求められたと思ったエリは口を開く。
「依頼料って出るの?
タダ働きはヤダよ」
エリの言葉に村長は宝箱を出す。
「貧しい辺境の村ですので、報酬に支払える物、この程度しか…」
宝箱の中は少数の銅貨と大量の鉄貨、他に材質は金や銀なのだろうが傷ついてボロボロの装飾品。
コレを冒険者ギルドに持ち込んで大鬼討伐を依頼しても受けて貰えるだけの価値は無いだろう。
クラージュはゲルタの方を見る。
「大鬼を何とかしなければ目的が果たせないな」
ゲルタの言う通り、大鬼が遺跡に巣くっているなら、大鬼対策をしなければ探索して魔法剣を発見するのは無理だろう。
大鬼の留守を狙う場合、村が大鬼に襲われている時に遺跡に潜り込む事になる可能性が高い。
村人を囮にして見捨てるのは良心が痛む。
そして大鬼から逃げ回りながら探索するのも無理がある。
それでも『闇の後宮』の4人が大鬼と戦えば犠牲が出ても不思議はない。
悩むクラージュの後ろで扉が開き、村の自警団の面々が飛び込んできた。
「冒険者殿が戦いに行くなら俺たちも一緒に行く!」
「お前たち…」
「これが大鬼を倒す最後の機会だ!」
「前の冒険者の方々のように死なせるわけに行かない!」
「そうだ!そうだ!」
村が滅ぶかどうかの瀬戸際だからだろう。
自警団の面々も一緒に戦うと主張し、その漢気に村長が目頭を押さえる。
いきなり始まった小芝居のような状況に唖然とするクラージュ。
そんなクラージュの袖をルゥが強く引く。
「クラージュさん…」
ルゥがクラージュを『助けて上げましょう』と上目遣いに見る。
エリは宝箱の中の法典神の聖印が刻まれた純金製のペンダントを手にして値踏みし、ゲルタは村長と自警団員たちの姿に冷たい美貌の笑みを浮かべていた。
はぁ…とクラージュはタメ息をつき目を閉じた。
自分たち4人と自警団員十数人、その人数なら大鬼に勝てるだろうか?
ただの村人に過ぎない自警団員を戦いに連れて行くのは、他の冒険者から批判されても仕方ない事だろう。
だが『闇の後宮』という冒険者一党は正面から大物喰い出来る構成の一党では無いのだ。
軽装備で機動性が高く、戦闘よりも探索などで力を発揮する一党なのだ。
「シシリィ…僕は間違っているかな?」
ゲルタ、エリ、ルゥ、仲間たちが命を落とすくらいなら自警団員が犠牲になる方がマシだった。
誰の犠牲も無く村を救えないなら、犠牲になるのは仲間ではなく村人であるべきだろう。
英雄でも勇者でもない少年には全て救えるわけでは無い。
クラージュは決意と共に目を開いた。
「大鬼討伐はお受けします。
ただ僕たちだけでは大鬼に勝てないかも知れません。
だから自警団の皆さんにも一緒に戦ってもらいます。
僕たちにも自警団の皆さんにも死人が出る可能性は高いです。
それでもいいですか?」
クラージュの言葉に自警団たちは歓声を上げ、村長はクラージュの手に握り何度も礼を言う。
その様をゲルタは冷笑し、エリは詰まらそうに目を反らし…
「女神スィーラスーズは言われました『善行には善行をもって、悪行には悪行をもって返せ』と」
そのルゥの呟きは村人たちの声に遮られてクラージュの耳には届かなかった。
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大鬼が巣くう遺跡の地下。
誰も訪れる事なく数百年が過ぎた一室に大きな宝箱があった。
「むにゃむにゃ…そうですぅ…神は言われたのですぅ…
『食べ物の恩と恨みは決して忘れてはならない』のですぅ…」
宝箱の中で眠る邪悪な存在は寝言を呟いた。




