第1話…わりとダメな冒険者の話
冒険者。
魔物退治から隊商の護衛、遺跡や未開地の探索、金さえ払えば何でもやる無法者。
そんな冒険者を曲がりなりにも管理するイシュリス王国の冒険者ギルドと提携する冒険者の店『木漏れ日亭』。
城塞都市アシュールの下町にある酒場と宿屋を兼業する『木漏れ日亭』の張場で、売り出し中の若手冒険者の少年クラージュは依頼が書かれた羊皮紙を読んでいた。
「うーん、依頼料は悪くないけど…」
木漏れ日亭の店主から受け取った依頼書の内容は、小鬼と呼ばれる亜人を生け捕りし依頼人に引き渡す仕事。
人族と敵対的で人里近くに住み着けば討伐対象になる小鬼。
人間の子供くらいの体格の亜人で、最弱の魔物なんて呼ばれる小鬼。
それでも退治と生け捕りでは難易度が何倍も違うのは言うまでもないだろう。
クラージュは自分が名目上は頭目をしている一党のメンバーで、この依頼が可能か考える。
一党4人に防御力が高い金属鎧を装備したメンバーは居ない。
軽装備の一党では難しいかも知れない。
そして、もう1つ気になったのは。
生け捕りにした小鬼は、金持ちが道楽で魔物を殺し合わせる闘技場に送られるとか想像して楽しくない未来が待っているだろう事。
小鬼退治の仕事を請け負い小鬼を殺した事があるクラージュにも、自分が生け捕りした小鬼の運命を考えると、しばらく飯が不味くなりそうな気がした。
「でも報酬がな…」
退治より数段高い報酬の金額は魅力的ではある。
この依頼を受けるべきか否か?
普通なら一党メンバーに相談するところだが…
悩むクラージュの手から、ひょいと依頼書が奪われる。
「へぇ、いい内容じゃないか」
「返せ!ラルフ!」
依頼書を奪ったのは長身の戦士ラルフ。
クラージュと同じ日に『木漏れ日亭』の扉を叩き冒険者になった男で、周りからクラージュの好敵手と勝手に認識されてる戦士。
「お前の一党じゃ、この依頼は無理だろ、諦めな」
ラルフの後ろの卓には、ラルフの一党たち。
板金鎧や鎖帷子といった重装備の戦士や神官戦士を含むメンバー。
大剣に鎖帷子の重戦士であるラルフを含めた6人なら小鬼の生け捕りくらいは朝飯前の仕事だろう。
「僕の仲間だって…」
このくらいの仕事は出来ると言おうとするクラージュだが、ラルフは小馬鹿にした笑顔でクラージュの後ろの卓を見る。
そこに座っているのは、クラージュの一党メンバーの1人。
何故か豊かな胸元や腹部が露出している硬革鎧を着た扇情的な美少女。
朝から麦酒の大杯を呑んでいる長い銀髪の彼女は、耳が長く尖り、その肌は褐色をしていた。
闇妖精。
人族と敵対的で人族の街では市民権も得られない亜人闇妖精の美少女ゲルタ・ゼーツレイフ。
腕の立つ魔法戦士だが、種族的に周りからの信頼感皆無の闇妖精であるゲルタは奴隷の証である首輪をしている。
その奴隷ゲルタの御主人様はクラージュという事になっていた。
「…」
あんなのが仲間じゃな、といった感じのラルフの小馬鹿にした笑みに何か言い返そうとしたクラージュだったが、クラージュが口を開く前に店の扉が開いた。
「うわ~ん!身ぐるみ剥がされた~!」
泣きながら入ってきたのは下着だけを身に付けた金髪をショートカットにした背は低いが胸が大きな美少女。
「ちょ…おま…」
クラージュは一党メンバーの吟遊詩人エリジェーベト・ラウ、通称エリに駆け寄り外衣をかけて半裸の身体を隠してやる。
「で…いくら負けた?」
クラージュは、賭事好きのエリが昨夜から賭場に入り浸り、賭事に負けて商売道具の楽器や装備すら借金のかたに取られたと察する。
「銀貨20枚~!」
クラージュやエリのような若手冒険者には大金と言える金額。
そんな金額をどうやって捻出するか…
武装も無くては冒険者の仕事も難しいだろう。
クラージュの後ろからラルフ達の笑い声が聞こえる。
馬鹿にするなと言い返したいが…どう考えても馬鹿にされる状況である。
ため息をつくクラージュの前で再び扉が開いた。
「あら、おはようございますクラージュさん」
入ってきたのは近所の施療院に早朝の奉仕活動に行っていた美しい女司祭のルゥ・リミヤ。
それだけ聞けば慈愛に溢れた聖職者なのだが…
銀色の長い髪を隠す女性聖職者用の頭巾だけがマトモで、その服装は…ただの布であった。
復讐の女神スィーラスーズの聖印が刺繍された細長い一枚布の真ん中に穴を開けて頭を通し、前後に布を垂らし腰の辺りを紐で縛っただけの服とも呼べない布。
布は幅が狭すぎて、大きすぎる胸の頂点をギリギリ隠しているが、その巨大で柔らかそうな双乳は横から大きくはみ出ていた。
そんな布の下はTバックの小さな下着一枚だけで乳押さえすら着けていない。
布は前後にも短く脚の付け根ギリギリまでしか無いため少し脚を動かせば小さな下着が丸見えになる…いや後ろから見れば生尻が丸見えになる…
完全に痴女である。
闇妖精のゲルタ、博打狂いのエリ、痴女のルゥ。
そして戦士で斥候で学者で野伏という器用貧乏のクラージュの一党。
どう見てもマトモには見えない一党であった。
「お前の一党じゃ、この仕事は無理だ…」
小馬鹿にする気すら失せて、クラージュに哀れみの視線を送りラルフは依頼書を持って立ち去った。
その背中をクラージュは力無く見ていた。
「店主、麦酒おかわり、大杯でな」
「うわ~ん!私の楽器と服~!」
「まあ、クラージュさん。
そんな疲れた顔をして何か悩み事ですか?」
三人の美少女の声を背中で聴きながら、クラージュはフラフラと張場に向かい。
「店主…何か実入りが良い仕事無い?」
銀貨20枚を稼ぐために店主に頭を下げた。