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物理特化の巫女の話  作者: 四季
3/3

妖怪退治の話

木々の間を駆け抜ける。火照った顔に風が当たり、暑いような涼しいような感覚に陥る。

・・・・・・と、最初は余裕たっぷりでそう思っていた優は、陽におんぶされていた。理由は簡単。最初の1分は前を走る陽に追いつけていたものの、陽が速すぎて、優と陽の差がみるみるうちに広がったのだ。

加えて、陽に全力ダッシュで何とか追いつけていたから体力が尽き、走れなくなった優を陽がおんぶして今に至る。

「というか」

陽が不意に口を開く。

「あなた渡り子なんだし、身体能力高いはずなんだけど・・・・・」

「そりゃ人間よりかは高いけど、陽さんは桁外れなんだよお・・。これ全力?」

「これから妖怪退治に行くのに道のりで体力使い切っちゃったら元の子もないでしょ?軽くジョギングくらいかな。」

「それでこれですか?速すぎますよ。50メートル5秒くらいで走ってません?」

「普通じゃないの?」

「私でも軽くジョギングなら6秒ですよ?全力ダッシュで4秒くらいですもん。陽さんは?」

「全力で1秒かな」

「ひえ」

そうこう話していると、優が突然「あ」っと呟いた。陽が首を傾げて催促すると

「そういえば、さっき陽さんが退治した妖怪はほっといていいんですか?」

「大丈夫、今頃消滅しているよ」

「?」

「あ、そっか。えっとね、妖怪は魔力が原動力だから、魔力ごと退治しちゃえば消滅するんだ」

陽が説明を終えると、優はふーんと呟いて

「妖怪って何で退治しても絶滅しないんですか?」

「それは・・・」

優の問いに陽は少しだけ口籠ると

「妖怪は、人間の憎しみの感情が具現化したものだから、人が憎しみを抱けば誕生する。そして、その憎しみが大きければ大きいほど、妖怪の力は強大になる。妖怪はある意味もう一人の自分だよ。」

「もう一人の自分・・・・?」

優が繰り返すと、陽は頷いて

「憎しみが、人間に、妖怪に、自分に溜まって溜まって、自分の憎しみの器から憎しみが溢れ出た時、妖怪は誕生する。憎しみの器は人によって違くて、心の広い人ほど、憎しみの器も大きいから溢れ出た時、大きな器から、強力な妖怪が誕生する。」

「・・・・」

「だから」

告げられた事実に優が押し黙ると、陽は笑って

「あなたは心が広いんだから、気をつけてね・・・・と、いた」

言い終わると、ちょうど目的地についたようだった。

森を向けた先にある野原に、一人の少女が立っていた。

セーラー服にポニーテール、身長も相待って女子中学生に見えるが、明らかに普通と異なる点があった

口が裂けるくらいの不気味な笑顔。

そして何より、白目の部分が全て黒くて、逆に黒目の部分が白い目だった。

「ひっ・・・・」

気味が悪くて思わず悲鳴をあげる優に対して、陽は落ち着いて

「大丈夫。あの目は妖怪全員が持っている。黒い部分が薄いほど強いんだ。今回は・・・・少し薄いくらいかな。大した敵じゃない。優はここで見てて。危険だからこれ以上近づいたらダメだよ。」

「あっ」

そう言い残すと、優が言葉を発するより先にあの妖怪の目の前へ移動していた。

「さて、妖怪。最近ここにきた人たちが帰らないらしいんだけど、何か知らない?」

「知らない!知らない!みーちゃんはお友達を増やしてただけだもん!あはははは!」

陽の問いにケタケタ笑いながら答える妖怪に、優の気味悪さは一層増した。

あの妖怪は、楽しんでいるのだ。流石に自分に身の危険が迫っていることは分かっているだろう。

嘘でも強がりでも余裕を見せるために笑っているのではなく、心の底から笑っているのが感情のわかる優にはわかっていた。

「駄目。そんな顔をしちゃ。」

「えっ・・・?」

前から声がした。

「そこにいれば絶対安全だから。絶対死なせないから。

だから、そんな怯えた顔しないで。」

声の主は、10mくらい離れた場所に優を庇うように立っている陽からだった。

勇敢で、安心できる声。だが、どこかすがるような声。

感情は変わらず少しの怒りと、嫌悪感で満たされていた。

「・・・うん。わかった。」

少し不思議に感じながらも陽を信じることにした優は、おとなしく陽のことを見守る。

「行くぞ、妖怪。」

「あははははは!巫女の魂の色は何色!?」

短く、冷たく言い放った陽は、もういなかった。

「どこに行ったのお〜〜???」

妖怪があたりを見回すと

「ここだよ」

妖怪の目の前に、黒く、短いナイフを持った陽が現れた。

「・・・・」

妖怪が黒い手から小さな丸い玉を取り出すと、陽へ向けて放った。

直後、陽がいなくなった。

「!?」

「捕まえたあ〜〜」

何が何だかわからない優に、嬉しそうな顔をした妖怪は

「君も、みーちゃんのお友達い。」

「ひっ」

消される

本能が、そう言った気がした。妖怪が優に向けて玉を投げようとした時

「もっとよく見て。霊魂玉れいこんだまの色を。」

妖怪の背後に、陽が現れた。

「え?」

「バイバイ」

困惑する妖怪に、陽は告げると

妖怪の胸を刺した

「あああああああああああああ!!!??」

痛みで絶叫する妖怪を陽は見下ろすと口を開く

「霊魂玉。人の魂、体をその中に閉じ込める玉。閉じ込められた相手によって、灰色の玉の色が変わる。私を霊魂玉の中に閉じ込めたと思った時、色は?灰色のままだっただろ?興奮しすぎだ。」

今にも死にそうな相手に、厳しく言う。

「まあ、お前が死んだら霊魂玉の中に入れられた人たちも戻ってくるし、何か言いたいことはあるか?」

「・・・・・みーちゃんの名前は、美香っていうの」

弱々しく妖怪・・・・美香は言うと少し間を開けて。

「自然が好きな友達と、この山に探検に毎日行ってたの。そこで・・・・熊に出会っちゃって。

友達はね、私を熊の方へ突き飛ばした。そして、引っ掻かれて噛まれて・・・・死んじゃった。

死ぬ直前に、私に背を向けて友達が走っていくのを見たよ。とっても、悲しかったなあ・・・」

段々と、美香の体が消えていく。これが消滅なのだろう。美香は続けて

「本当の友達が欲しかったの。見捨てない友達が。だから、こんなことしちゃった。」

もう、美香の体は首から頭しか残っていない。美香は最後に一つというと

「こんなことしてごめんなさいって、村の人に言っといてくれる・・・・?」

「わかった。じゃあな」

頷いて帰ろうとしている陽を見て、優はいても立ってもいられず

「あの、美香さん!」

そう叫んだ。二人の驚いた顔を無視して

「私を、美香さんの友達にしてくれますか・・・・?」

そう聞いた。それを聞いた美香は涙を流しながら

「うん・・・・。ありがとう。ありがとう。」

そう笑顔で言って、消滅した。

「・・・いくよ」

「うん」

陽に呼びかけられ、二人はその場を後にした。






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