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いつの日か君の隣で  作者: 要
冷たい雨のその先に
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  幕間 〜 一ノ瀬瑞希

 昇降口に向かう廊下の北側の窓からは、シトシトと振り続けている雨の様子が伺えた。

 私は一度足を止めると、水滴が窓に当たる小さな音に耳を傾けた。

 雨は好き。但し、自分が外出する予定がない時に限る。

 私は心の中で自分の意見に注釈をつけ、一人で“クスッ”っと小さく笑うと、再び廊下を歩き出した。

「晃君は相変わらず部活に出ないで帰っちゃうし。」

 私は小さく溜息をつく。

 晃君が部活に出ないのは今に始まったことじゃない。でも私が部活に顔を出す日ぐらい一緒に出てくれてもいいのに、というのが本当の気持ち。

 今日は日菜乃ちゃんはゆっくりしてるのかな。

 私はインターハイ予選を控えた友達に思いを馳せた。

 きっと日菜乃ちゃんのことだから、毎日遅くまで練習をしている事だろう。

 今日みたいに雨の日ぐらいは、ちゃんと休養を取らせてあげたい。

 そういえば家庭科部にも全国大会というものがあるって聞いた。

 家庭科部の全国大会・・・。 部長はエントリーする気がないみたいだからあんまり話題に上らないのもあるけど、何を競うのかが全く想像できないわね。

「ねぇねぇ、今日はコレどうする?」

 そんな他愛もないことを考えながら歩いていると、昇降口から下品な笑い声とともに、誰かの話し声が聞こえてきた。

「もう面倒だから捨てちゃえば?」

 私はこの声を知っている。

 こんな声を覚えたくはないんだけど、最近何かと耳にする声だから残念ながら覚えてしまった。

 間違いない、親衛隊の声だ。

「渡辺って、何やっても堪えないよね。履歴書の特技欄に『無神経』とか書けそうじゃない?」

 渡辺?

 よくいる名字ではあるけど、私の学年には日菜乃ちゃんしかいない。

 声の主にバレないように、廊下の角にそっと座った私は、壁から顔を半分だけ出して、下駄箱の方を盗み見た。

 ふふっ、ちょっと探偵みたいね。

 私の目に映ったのは、私のクラスの下駄箱の前で談笑している親衛隊の姿。

 手には誰かの、というより話の流れから言って間違いなく日菜乃ちゃんの上履きを持っている。

 さっき「捨てる」って言ったよね。

 まさか、日菜乃ちゃんの上履きを捨てるってこと?

 大和親衛隊、渡辺日菜乃、上履き、捨てる。

 さすがの私でもこの状況は“ピン”ときた。

 あまりトラブルに首を突っ込むことのない性格の私だけど、さすがにこの状況は見て見ぬふりはできない。

 私は一回深呼吸をすると、意を決して昇降口に躍り出・・・ようとしたら誰かに右手首を捕まれ、引っ張られた。

「瑞希先輩、ちょっと待って。」

 私の手首を引っ張ったのは、金髪に近い茶髪の少し気の強そうな女の子、戸田咲希ちゃんだった。

 確か日菜乃ちゃんが、咲希ちゃんが最近陸上部に入ったって言ってたな。

「気持ちは分かりますけど、動画撮ってるんで、もうちょっと待ってもらえます?」

 咲希ちゃんの指さした方に目をやると、親衛隊のいる向かい側の下駄箱の上にスマホが設置されているのが見えた。

「私をナメるとどうなるか、思い知らせてやるんだから。」

 咲希ちゃんと親衛隊の間に何があったのかは知らないけど、親衛隊が虎の尾を踏んでしまったことは確かなようだった。


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