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いつの日か君の隣で  作者: 要
冷たい雨のその先に
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   幕間 〜 戸田美桜

 弓道には「真・禅・美」という言葉がある。

 いや、少し違う。

 「真・禅・美」とは弓道そのものを表す言葉。

 真とは弓は日々の鍛錬を裏切ることはないという意味。正しい射法で射った矢は必ず的に当たるということ。

 禅とは弓には敵はおらず憎しみの気持ちとは無縁であるという意味。常に自分と向き合い、自らを顧みる事が大切だという意味。

 美とは弓の集大成。「真」と「禅」が融合する、つまり正しい技術と心が揃ってこそ美しく弓を射ることができるということ。

 私の射った矢が風を切り、吸い込まれるように的を射抜いた。

 私は残心を取りながらゆっくりと息を吐き、今年のインターハイへの手応えを感じていた。

「部長、お疲れさ様でした。」

 すでに部活の時間は終了し、今は自主練の時間。部員たちは次々と帰路につき、ついに弓道場に残されたのは私一人となった。

「最後の大会なんだから、もうちょっと本気になってくれてもいいのになぁ。だからいつまで経っても弱小って言われちゃうんだよ。」

 そう呟いた直後、私は首を振って自分の考えを否定した。

 学生の本分は勉強、部活はあくまで課外活動の一環なのだ。強制されて行うことじゃない。

 私は弓を下ろし、弓道場の端に設置されている椅子に腰をかけ、天井を見上げた。

「ごめーん、これから彼氏とカラオケ行くんだ。」

 どこからか、楽しそうな声が聞こえてきた。

「マジで?あんたこないだ別れたばっかりじゃん。」

「実はね、先週から付き合い出したんだ、となりのクラスの・・・。」

 目を向けると、同級生の女子ふたりが自転車にまたがったところだった。

 別に他の子が何をしてても干渉する気はないが、一回しかない高校生活をもっと有意義に使えばいいのにと思ってしまう。

 私は小さくため息をついた。

 友達が恋や遊びに夢中になっていた時、私は勉強と部活に本気で取り組んできた。

 生徒会には所属しなかったけど、委員会活動は頑張り、学校の行事だって積極的に参加した。

 おかげで成績も伸び、先生からの評判も良い。大学だって推薦がもらえるという話が出ている。

 私の高校生活は有意義であったと胸を張っていえる。

 でも、このモヤモヤした気持ちは何?

「あんたも受験生なんだから、勉強しないとまずいんじゃない?」

「あたしはね、彼氏がいたほうが頑張れるタイプなんだよ。」

 何を馬鹿なことを言っているの?デートに費やしている時間を勉強に使ったほうが、よっぽど有意義な時間を・・・。

 有意義って・・・なんだろう。

 青春と呼ぶには色鮮やかではない私の高校生活。

 授業を受け、課題をこなし、やる気のない部員たちと部活を行う日々。

「私も恋でもすれば違ってたの?。」

 その時、一人の男子の顔が頭をよぎったことに、私は驚かずにいられなかった。

「速見くんはダメ。だって咲希の好きな人だもん。」

 少し顔が熱い。

 水を飲まずに運動したのがいけなかったみたいね。

 私はこの熱を熱中症のせいにして、弓道場を後にした。


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