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いつの日か君の隣で  作者: 要
冷たい雨のその先に
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冷たい雨のその先に(1)

 梅雨空の下といえども、夏の大会を目前に控えた運動部は活気に溢れている。

 毎年県大会で敗退してしまっているサッカー部は、右サイドバックに定着した大和を軸に展開する攻撃的なサッカーで初のインターハイ出場を目指す。

 また、昨年は1年生ながら地方大会出場という快挙を成し遂げた日菜乃は、今年も高跳びの選手として選抜されたようだ。

 優愛は優愛で、今年一緒にレギュラーに選ばれた加藤さんとの連携に手応えを感じていると言っていた。

 昨年、個人競技でインターハイ出場を果たした美桜先輩は、弓道部部長として個人・団体共に入賞を目標に掲げているらしい。

「みんな気合入ってるよね。」

 教室の窓から校庭の様子を眺めていた僕に、瑞希が近づいてきた。

「去年、大和は先輩よりも実力があったのに1年生ってことでレギュラーから外されて悔しい思いをしていたし、日菜乃はあと少しってところでインターハイを逃しているからな。優愛のいるバスケ部はまだ実力不足なところはあるけど、去年よりチームにまとまりが出てきたって言ってたよ。」

 そして美桜先輩は最後の大会だと、心の中で付け加えた。

「そういえば戸田先輩の妹・・・咲希ちゃんだっけ?3000メートルでエントリーしたって。知ってた?」

「咲希ちゃんが?陸上部に入ったばっかりでしょ?」

 瑞希の言葉に、僕は驚きを隠せずにいた。

 咲希ちゃんがいつの間にか陸上部に入っており、偶然にも日菜乃と仲良くなっていただけでも驚きなのに、今度は長距離選手として大会にエントリーまでしているというのだから無理もない。

「ふぅん、そっか。知らなかったんだ。」

 どことなく嬉しそうな表情の瑞希。

「なんだよ。そんなことでマウント取ったって仕方がないぞ。」

「そういうんじゃないよ。まだ知らせてもらえるってほどの仲じゃないんだって思っただけ。」

「そんなの、当たり前じゃないか。」

 色々あったけど、咲希ちゃんとはただの先輩後輩の間柄だ。こまめに連絡を取るような関係じゃない。

 まあ、全く進展しない美桜先輩との仲を取り持ってくれたら良いな、などという淡い期待を持っているあたりは「ただの先輩後輩」という言葉は当てはまらないのかもしれないが。

 陸上部のトラックに目を向けると、ちょうど咲希ちゃんがスタートするところだった。

「日菜乃の話じゃ、部長より速いんだって。凄くない?」

 それにしたって、入部して即レギュラーってのは異例な状況だろう。他の部員たちの反感を買わなければ良いけど・・・。

「長距離志望の部員がいなくて、選手枠が空いてたってのが本当の理由みたいだけどね。」

「なるほどね。」

 瑞希の言葉に納得して校庭に目をやると、体育倉庫の前で日菜乃が高跳びのバーの上を飛び越えたところだった。

「日菜乃ちゃん、最近は調子良くないみたい。」

 陸上に限らず、最近の日菜乃は何かに悩んでいるように見える。

「瑞希は日菜乃に何か聞いてないの?」

 僕が聞いても「何でもないよ」としか返ってこないが、女子同士であれば何か話ているかもしれない。

「日菜乃って、あんまり自分のこと話したがらないんだよね。今度、聞いてみるよ。」

 そうだな。本当に何も無いかもしれないし、余計な詮索をされるのも気分の良いものじゃないだろう。

 ここは瑞希に任せておくとするか。

「あ、大和君にボールが渡ったよ。」

 サッカーコートの方を瑞希が指差した。

 目をやった先には、相手コートの深いところでパスを受け、ドリブルでゴール前に切り込む大和の姿があった。

 1人躱した大和が、左足でそのままシュートを放つ。

 相手キーパーに弾かれ、ボールはわずかにゴールバーの上を通過した。

「あっ!惜しい!」

 両手を握り、興奮気味に瑞希が声を上げた。

 コートでは大和が頭を抱え、大袈裟に悔しがっている。

 いつもは物静かな大和であるが、コートの上では感情を露わにする。

 このような姿を見ると、大和が本当にサッカーを好きなんだなとつくづく思う。

「今日もあの子達いるけど、やる事ないのこな。」

 瑞希がうんざりしたように溜息をつく。

 瑞希の言う「あの子達」というのは、長嶋梨里、山崎知里、三浦玲奈、いわゆる「大和親衛隊」の3人だ。

 相変わらずゴールネット裏に陣取って、他人の迷惑も顧みず大和に声援を送っている。

 一度、大和に苦言を呈した事もあるが、自分が応援されている手前、強くは言えないでいるようだ。

「あの子達とはあんまり気が合いそうもないな。」

 瑞希の言葉に、僕も「確かに」と心のなかで同意した。


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