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いつの日か君の隣で  作者: 要
雨空のあとには
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雨空のあとには(2)

 稲荷神社の入り口には、大きな2本の銀杏の木が枝をいっぱいに広げている。

 僕が物心ついたときに既に大木だったその木は、きっと何十年も前から同じ姿でそこに立っているのだろう。

 境内の周りにはクヌギやコナラの木が多く繁っており、小学校の時にカブトムシ取りに夢中になったことを懐かしく思う。

「くしゅん!」

 隣で瑞希が小さなくしゃみをした。

 結局、神社に到着する前に雨が強くなってしまい、雨宿りと言うには何とも中途半端な状態で今に至る。

「ギリギリセーフだったね。」

 境内に座った瑞希が、足をブラブラと揺らしながら言った。

「それを言うなら、ギリギリアウトじゃない?肩とか結構濡れちゃったし。」

 そう言った僕は、瑞希の方を見てから慌てて視線をずらした。

 背中の方だから瑞希は気づいていないのかもしれないが、濡れたブラウスが透けてブラがはっきりと見えてしまっているのだ。

 最近、瑞希には僕のエロい・・・いやいや、ある意味男らしい部分を見せてしまう機会が多かったので、二人っきりのときに、そういう所を意識させてしまうのはあまり良くはないだろう。

 僕はバレないように、もう一度瑞希を盗み見る。

 雨に濡れたうなじが艶のある髪と相まって、妙に色っぽい。

 いやいや、見ちゃダメだ。

 同級生にそんな目で見られているなんて知ったら、瑞希だって気持ち悪がるに決まっている。

 僕は何度も景色を見るように努力をするのだが、僕の意に反していつの間にか僕の視線は瑞希の方へと向いてしまう。

「何?」

 や、やばい。気付かれたか?

「何が?」

 なんとか平静を装う僕。

「だって、さっきからこっちをチラチラ見てるでしょ?」

「そ、そんなことはないよ。そうだ、寒くない?」

 僕はスポーツバッグの中からジャージを取り出し、何とか話題を変えようと試みた。

「ありがと、でも大丈夫。」

 着てくれないと目のやり場に困る、というより僕の本質的な部分が色々と困ってしまうのだが、さすがに同級生の男子のジャージを借りるのには抵抗があるのだろう。

「自然が多くて良いところだね。」

 稲荷神社は鬱蒼と茂った林の中にあり、大通りとそれほど離れていないにも関わらず、まるで物語の中に迷い込んでしまったのではないかと思うほど幻想的な場所だ。

 神社という世俗とはかけ離れた空間であるがゆえに、僕が無意識に神聖視しているのかもしれない。

「こんな神社でも、夏祭りのときは賑わうんだよ。」

「へぇ、お祭りがあるんだ。」

 毎年、行われる市民まつりでは、駅前の商店街から稲荷神社までの道を利用して、様々なイベントが行われる。

 祭のクライマックスで打ち上げられる海上花火は、周辺の地域と比べても最大級の規模であろう。

 この日ばかりは稲荷神社から海へと伸びる階段は、カップル達の最高のデートスポットと変わるのだ。

「私も見てみたいな、花火」

 今日は生憎の雨であるが、晴れたときに木々の間から見える海の景色は素晴らしいものがある。

 地元であるがゆえに多少の贔屓目はあるのだろうが、こんなシチュエーションで見る花火は一見の価値があるはずだ。

「じゃあ、夏祭りは勇斗や優愛を誘ってみんなで来ようか。」

 東京から越してきたばかりの瑞希にとって、稲荷神社までの暗い道のりを歩くのは不安があるだろう。

 そんな時、同級生が近くにいれば何かと心強いはずだ。

「晃君って、ちょっとズレてるよね。」

 なぜだか瑞希は僕の渾身の提案に不満顔だ。

 木々の葉に落ちる雨粒の音や、境内の屋根から滴り落ちる雫の音が不規則で心地良い音楽を奏でる。

「やっぱり寒くなってきちゃった。ジャージ貸してくれる?」

 僕はスポーツバッグにしまわずに、バッグの上に置いておいたジャージを瑞季へ手渡した。

「ありがとう。」

 ジャージに袖を通した瑞希が、握った両袖を顔の近くに持っていく。

 非常時とはいえ男子のジャージを借りるんだ。変な臭いがしないか確認でもしているのだろう。

「ちゃんと洗ってあるから大丈夫だよ。」

 貸したジャージは昨日洗濯したばかり。

 今日は体育の授業もなかったし、臭いがするのであれば、柔軟剤の香りぐらいだろう。

「あ、ゴメン。臭いとか気にしてたわけじゃないんだ。」

 瑞希が袖から両手を離して、目の前でブンブンと振って否定してみせた。

 雨が葉に当たるザァザァという音は、さっきよりも大きくなってきているように思える。

「雨、やむかなぁ。」

 膝を抱えるように座った瑞希が、僕のジャージの襟元に顔半分を埋めさせて呟く。

 自転車であのまま家まで帰ったほうが、良かったのであろうか?

 今となってはもう遅いことなのであるが、家の方はまだ小降りで、急げばあまり濡れなくて済んだという可能性だってあったのだ。

「こんなんで風邪ひいちゃったら、馬鹿みたいだよな。」

「ちょっと〜、無駄にフラグ立てないでよ〜。」

 僕の言葉に瑞希が不満そうな表情を浮かべた。確かにこれが漫画だったら、絶対に風邪引く流れだよな。

「暇だから散歩でもしてこよ。」

 瑞希が立ち上がり、境内の裏手へと消えていった。

 散歩といっとも一周5分もかからない小さい神社だ。すぐに飽きて戻ってくるだろう。


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