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いつの日か君の隣で  作者: 要
雨空のあとには
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   幕間 〜 戸田咲希

 グランドに運動部の掛け声が木霊した。

 中間テストの鬱憤でも晴らしているのか、どこの部活もいつも以上に活気があるように思える。

 うちの高校は何らかの部活に属することが義務付けられているが、なんだかんだ理由をつけて、私は未だにどこの部活にも属していない。

「いいかげん決めなきゃダメだよね。」

 ため息混じりに私は呟いた。

 晃先輩と同じ家庭科部に入れば楽しく活動できるのだろうと思ってはいるのだが、中学の時に陸上部に所属していた私はついついグランドに足が向いてしまう。

「1年生、遅れてるよ。ペース上げて!」

 ちょうど声を出したのは陸上部の先輩。

 あの走り方は、きっと長距離ランナーだ。

 私はフェンスに寄りかかるようにして体を預け、先輩を目で追った。

 走るフォームもきれいで、ストロークも速く力強い。

 先輩はぐんぐんとスピードを上げて、他の部員を引き離していく。

 それでも・・・。

「それでも、私の方が速い。」

 私は何を言っているの?

 自然に口から出た自分の言葉に私は驚いた。

 陸上はもう辞めたんだ。

 入学するとき、高校では自由に生活するって決めた。もう誰かに指図されて生活するなんてゴメンだわ。

「そう思うなら、あなたも走ってみたら?」

 急に声をかけられて、私は弾かれたように振り向いた。

 フェンスの内側から声をかけてきたのは、サイドポニーテールの髪型をしたスレンダーな先輩だった。

 入学早々、クラスの男子が「陸上部に可愛い先輩がいる」って言って騒いでいたから、この先輩の顔は覚えている。確かハイジャンプの選手だ。

 運の悪いことに、さっきの独り言を先輩に聞かれてしまったらしい。

「気分を害してしまったのなら謝ります。すみませんでした。」

 私は先輩に深々と頭を下げた。

 意図せず出てしまった声だったとしても、今のは私が全面的に悪い。

「ん〜、そういうんじゃないんだけどな。」

 だったら、一体なんだ。

「あなた、最近ずっと陸上部を見てるでしょ?もしかしたら入部したいのかなって思って、声をかけたんだよね。」

 なるほど。確かに最近、陸上部の前で立ち止まることが多かった気がする。

「別にそう言うんじゃないんで、大丈夫です。」

 陸上は辞めた。

 私は私のやりたいことをやって、高校生活を満喫する。そう決めたんだ。

「そっか、ちょっと残念。」

 でもやりたいことって何?

 学校帰りにゲームセンターに寄ること?

 アウトレットで可愛い洋服を買うこと?

 みんなで騒ぎながら買い食いをすること?

 どれもそれなりに楽しかったけど、満たされることはなかった。

「気が向いたら部室に来てね。」

 先輩は小さく手を振り、体育倉庫の方へと歩き出した。

 あ、ちょっと待って。

 どうしよう。今を逃したら、絶対に後悔する。

 でも私が陸上をやりたいと思っているかどうかなんて、私自身だって全然わからない。

 でも・・・!

「あのっ!」 

 意を決して発した私の声に反応して、先輩が振り返った。

「えっと、とりあえず、一本だけ走ってみても良いですか?」

 後悔だけはしたくない。


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