幕間 〜 一ノ瀬瑞希
峠を吹き抜ける少し強い風が、火照った体を冷やしてくれる。
「気持ちいい風。」
そう言って空を見上げる私の声に反応する人はいない。
シャトルを打ち合う音が、さっきから随分と長く続いていた。
遊びで始めたバドミントンが思いのほか盛り上がり、ついには賭け事にまで発展していた。
バドミントンがあんまり上手ではない私は早々に敗退してしまい、今はパートナーの勇斗君と一緒に勝負の行方を見守っているところ。
さっきから勇斗君が「賭けるなんて言うんじゃなかった」と独り言を言っている。
私個人としては、アイス代ぐらいでそんなに後悔しなくてもいいんじゃないかって思うけど、男の子にとっては「負けた」という事実が問題で、金額はそれほど大きな問題ではないのかもしれない。
ごめんね、勇斗君。
それにしても、晃君って本当に運動神経が良いんだなって感心する。
晃君が運動神経が良いことは日菜乃ちゃんから聞いてはいたものの、実際に見たことはなく、半信半疑・・・というより全く信じてなかった。
それなのにバドミントンのコート内を縦横無尽に移動し、シャトルを打ち返す晃君。
不覚にもちょっと格好いいって思っちゃったじゃん。
「ちょっと先輩、今のズルくないですか?」
晃君の反則スレスレのプレーに、戸田先輩の妹である咲希ちゃんが抗議の声を上げた。
問題となっているのは、晃君が咲希ちゃん達のコートにシャトルを押し込むように落としたプレーだ。
確かに今のは、ちょっとずるいかも。
「何だよ、勝ちは勝ちだろ。」
晃君が小学生のような主張をする。
前言撤回。やっぱり晃君は格好良くない。
「さてと、何を奢ってもらおうかな〜。」
ラケットを置いた優愛ちゃんが、勇斗君を押して自動販売機まで走っていった。
「プレミアムって書いてあるアイスはやめてくれよ。今月は金欠なんだから。」
あれ?
勇斗君が問題視しているのは「勝ち負け」じゃなくて、アイスの金額なのかな?
さてと。私も晃君を連れてアイスを買いに行きますか。
「晃君は何にする?」
「いいよ。奢ってもらっちゃ悪いし。」
晃君がバツの悪そうな顔をした。
基本的にいい人である晃君は、あんな勝ち方では少し申し訳ないと思っているんだろうな。
「あれ?「勝ちは勝ち」なんでしょ?」
そう言って、私は晃君の手を引き自販機へと走った。
握った右手を通して、晃君の体温を感じる。
体が熱いのはきっと運動した直後だからだと、自分に言い聞かせて前を向いた。
とてもじゃないが晃君の顔を見れるような状況じゃない。
「晃君はどれにする?」
自動販売機の前で私は晃君の手を離して、アイスのラインナップを確認した。
勇斗君の言っていたプレミアムなアイスっていうのはこれか。
「じゃあこれ。」
晃君の選んだアイスはモナカタイプのスタンダードなもの。
あえてプレミアムなアイスを選ばないところが晃君らしい。
私は何にしようかな・・・。
スタンダードなチョコ系か、それとも敢えて冒険に出るか・・・。
優柔不断な私は、こういう時に時間がかかってしまう。
「なぁ、瑞希。」
何かと思い振り返ると、モナカアイスを半分に割り、片方を私に差し出す晃君の姿があった。
え?何?どういう事?
晃君の思いがけない行動に混乱する私。
「汗がひいたら、ちょっと寒くなってきちゃって。」
そう言って鼻の頭を掻く晃君は、汗がひくどころか止めどなく流れているように見える。
「ありがと。」
どういうつもりが知らないが、らしくないことをする晃君はからアイスを受け取ると、私はモナカを一口かじる。
口いっぱいに広がるチョコとバニラの甘み。
もう。こんなことされたら、もしかして脈があるのかななんて期待しちゃうじゃないの。




