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いつの日か君の隣で  作者: 要
ドキドキBBQ
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   幕間 〜 戸田咲希

 今日は珍しく目覚ましよりも早くに起きた。

 ベランダへと続くテラス戸のカーテンを開けた私は、朝日に向かって大きく伸びをする。

 久しぶりにスッキリとした朝だ。

 パジャマを脱ぎ、ブラウスとスカートを身に着けた私は、自分の部屋から出ると、パンの焼ける香ばしい匂いが漂うリビングへ向かって階段を下りた。

 途中に洗面台へ寄り、気合を入れるために冷たい水で顔を洗う。

 鏡に映った私の顔は、いつもより少しだけ柔らかい雰囲気に見えた。

 鏡の中の自分に「大丈夫」と言い聞かせ、私はリビングのドアノブを回す。

「咲希、おはよう。今日は早いのね。」

 キッチンに立つお姉ちゃんが私に声をかけた。

「お、おはよう。・・・お母さんは?」

「今日は朝から会議があるからって、少し早く家を出たよ。」

 私は「あ、そう」と、素っ気ない返事を返した。

 お弁当に入れる玉子焼きを作っているのだろう。お姉ちゃんが溶き卵をフライパンに流し入れると、ジュワっという音とともに、美味しそうな匂いが部屋に充満した。

 私はそれ以上、口を開くことができず、テーブルの上で握った右手に視線を落としていた。

 会話が途切れ、リビングが一瞬だけ静まり返った。ほんのちょっとの会話の無い時間が、とても長く感じる。

 昨晩は結局、謝ることはできず、お風呂に入った後に私は自分の部屋に籠もってしまった。

 一言「ゴメンね」と言うだけ。

 とても簡単なことなのに、私はその一言を言えずにいた。

 時間が経てば経つほど、気まずくなってしまう事は分かっている。一刻も早く、口を開かなければならないのに、最初の一言が出てこない。

「お姉ちゃん・・・。」

 私の声に反応し、フライ返しを持ったお姉ちゃんが振り返り「何?」と首を傾げる。

「その・・・。」

 次に続く言葉が思いつかない。

「私の分のお弁当も作ってよ。」

 お姉ちゃんが驚いた表情で私を見た。

 違う。言いたいことは、そんなことじゃないのに。

 一瞬の沈黙の後、吹き出したお姉ちゃんはフライ返しで口を覆い楽しそうに笑った。

「咲希がそんなこと言うの、随分と珍しいわね。」

 お姉ちゃんの言葉で、自分の耳が熱くなるのが分かった。

「ど、どうなの?作ってくれるの?くれないの?」

 照れくさくなり、自然と声が大きくなる。

「もちろん作るわよ。待ってて、美味しいの作るから。」

 お姉ちゃんがフライ返しを器用に回して見せる。

 しかし、お姉ちゃんがそう言った直後、私はフライパンからゆらゆらと立ち昇る黒い煙を目撃した。

 キッチンから漂ってくる玉子の焦げた臭い。

「お姉ちゃん!焦げてる、焦げてる!」

「えぇ!大変!」

 私の言葉でお姉ちゃんが急いで振り返り火を消すが、時すでに遅く、出来上がったのは真っ黒に焦げた玉子焼き。

「ごめーん、今日は学食でもいい?」

 お姉ちゃんが、ちょっと前までは黄色かったであろう物体を、フライ返しで持ち上げて私に見せる。

「ぷっ。しょうがないから、今日は学食で我慢してあげる。明日はちゃんと作ってよね。」

 私はあえて悪態をついてみせた。

 何年も聞かれることのなかった私とお姉ちゃんの笑い声が、朝日の差すリビングに響き渡った。


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