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いつの日か君の隣で  作者: 要
交錯する想い
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交錯する想い(7)

 日が落ち、薄暗い街灯の明かりが照らす自宅までの上り坂を、僕はゆっくりと自転車で走っていた。

 海からの潮風が僕の髪を撫でて、丘の上へと吹き上がった。

「風が気持いい。」

 思いの外、遅い時間になってしまった。

 咲希ちゃんと喫茶店で話をしたあと、急に買い物に付き合えと言われショッピングに連れていかれ、その後ファーストフードでハンバーガーまで食べてきてしまったのだ。

「よく喋る子だったな。」

 なんとか美桜先輩との繋がりを持とうと頑張ったけど、結局咲希ちゃんの話、というか愚痴を聞くだけで時間が経ってしまった。

 結局、何の進展もなかったが、美桜先輩の妹と知り合うという、スペシャルな幸運が訪れたのだ。それだけで満足しなければバチが当たってしまう。

「ただいま。」

 僕はカーポートの横に自転車を停め、玄関の扉を開けて中に入った。

 リビングの電気がついている。珍しく父さんの帰りが早かったようだ。

 部屋に入る前に軽く声をかけておこう。

 少しぐらい帰りが遅くなっても、高校生の息子を心配するとは思えないが、帰宅を知らせておくぐらいはしておいたほうが良いだろう。

「父さん、ただいま。」

 リビングの扉を開け、中に入った。

「おぉ!晃くん。お邪魔してるよ。」

 僕の声に答えたのは父さんではなかった。

「一ノ瀬さん、いらっしゃい。どうしたんですか?」

 っていうか、酒臭ぇ。

「いやあ、我が家のお風呂が壊れちゃってねぇ。この辺じゃ銭湯も無いっていうから、速水さんに甘えちゃったんだよ。」

 真っ赤な顔をした一ノ瀬さんが、サキイカを口に放り込みながら言った。

 なるほど。父さんが珍しく早く帰ってきたのには、こういう理由があったのか。

「おかえり、晃。遅かったな。」

「ちょっと駅前に行っててね。夕飯は食べてきたよ。」

「そうか。瑞希ちゃんが学校からは早く帰ったと言っていたから、もう少し早くに帰ってくると思っていた。」

 ふとテーブルに目をやると、オムライスがひとつ置いてあった。

 父さんが夕飯として作ったものだろう。

 知らなかった事とはいえ、少し悪いことをしたなと思う。

「夕飯、ハンバーガーじゃ少し足りないから、後で食うよ。」

 オムライスは風呂上がりにでも頂こう。

 それにしても、自宅でオムライスが出てくるなんて何年ぶりだろうか。

 母さんが生きていた頃は、よく作ってくれたオムライス。チキンライスを薄焼き卵で巻いた昔ながらの素朴なオムライスが僕は好きだった。

「そうだな。その方が瑞希ちゃんも喜ぶだろう。」

 瑞希?なんで瑞希の名前が出てくるんだ?

「晃、後がつかえるから風呂に入っちゃいなさい。」

 一ノ瀬さんは随分と酔っ払っているようだけど、このあと風呂に入っても大丈夫なのか?

 僕はそう疑問に思いつつも、父さんは酔っ払っているわけではなさそうだし、子供が心配する事でもないだろうと思い、自分の部屋に帰りパジャマ代わりのスウェットと下着を準備した。

「ふ〜ろ、ふ〜ろ。」

 階段を下りれば脱衣所はすぐそこだ。

 僕は脱衣所のドアノブに手をかけ、ふと考える。

 瑞希は・・・どこにいるんだ?

 一ノ瀬家の風呂が壊れたということは、瑞希も風呂に入れない。

 父さんの話から推測すると、瑞希はこの家に来ている。

 こ、これは・・・脱衣所の扉を開けると、同級生が脱いでいるというラブコメ王道のパターン、その名もラッキースケベ。

 開けるぞ!

 良いのか?!

 本当に良いのか?!

 せーのっ!

 僕は渾身の力で脱衣所のドアノブを回し、手前に引いた。


 ――ガチャ!


 電気かま消え、静寂に包まれた脱衣所。

 微かに聞こえる道路を走る車のエンジン音。

 僕は入口付近にある電気のスイッチを入れた。

 洗面台、洗濯機、脱衣籠。

 脱衣所の電気をつければ広がる、見慣れた風景。

「はぁ、馬鹿なことを期待してしまった。」

 自分の考えが無性に虚しくなった。

「さっさと風呂に入って気分転換をしよう。」

 明日も履くズボンは脱いだ後にハンガーにかけて。しっかりシワを伸ばしておく。

 ワイシャツ、Tシャツ、下着は脱いだら洗濯籠へ。

 バスタオルを準備して、いざお風呂場へ。

「先にお風呂いただきます。」

 小さく聞こえた女性の声。


 ――ガチャ!


 脱衣所の扉が開いた。

 そこにいたのは・・・み、み、瑞希?!

 驚きのあまり、声も出せずに固まるふたり。

 瑞希の視線が下方向に移動した。

「あ、瑞希ちゃん。今は晃が風呂に・・・。」

「きゃーーーー!!」

 瑞希の持っていたスポーツバッグが、凄いスピードで飛んできて僕の顔面にヒットした。

「何してんのよ!バカ!」

 僕、悪くないと思うんだけど・・・。

「ゴメン、言うの遅かったね。」

 廊下の先から、父さんが謝罪する声が微かに聞こえた。。


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