8話 武具製作やってみた
魔法士ギルドの職員寮の俺の部屋へ皆を通した。
「すげーな! 魔法士ってこんなに、いい部屋に泊まれるのかよ!?」
瑛太の言葉の通りだな… 今日見てきた冒険者見習い寮の酷さには驚いた。
さぞ羨ましかろう。
「それなりに、金を徴収されてるからな… これくらいの部屋くらい用意してくれても、いいとは思うぜ? よし、それじゃ、始めるか!」
「それ、それ、今から何が始まるんだ?」
「まぁ、見てろって!」
【クリエイト・メタル】【クリエイト・ウエポン】
先ず、俺は【クリエイト・メタル】で魔鉄と言われている金属を創る。
魔鉄とは鉄に、長い間魔力が込められ続け、なお地下で圧縮されていると出来上がるのだ。
よって、その状態を俺は魔法で創り出す。
磁鉄鉱に似ているそれは、黒色で固く地球には無かった物質。
普通の鉄より、魔力の伝導率が高く、鉄より硬度が高いのだ。
さあ、この地球には無い物質で、実験を始めよう!
先ず最初に作るのは、冴恵先輩の武器だろう。
冴恵先輩はまだ見習い剣士、見習い冒険者なのだ。
その成長速度の遅さは、皆が足を引っ張っているのもあるが、洋剣と日本刀の違いに苦労しているのも1つの要因ではないかな?
洋剣の基本は、叩き斬る事を目的として作られており、両刃で直刀、これは片方の刃が刃こぼれしても、もう片方の刃で戦えるよな思想から作られた物で、重厚で肉厚な物が多い。
そして、それとは真逆と言ってもいい思想で作られたのが日本刀。
斬れ味の鋭さを増させる為に、反りがあり、その反りを活かす為に片刃で、細身で折れず曲がらず、斬る事に特化した物になる。
日本刀の斬るを身体に染み込ませていた冴恵先の【天剣】は、日本刀を持った時に最大限に発揮されるのではないだろうか?
俺達のパーティーが欲しいのは、即戦力のアタッカーなのだ。
そして、冴恵先輩に日本刀があれば、それは可能。
さあ、作ろう! 【クリエイト・ウエポン】
日本刀の制作過程は、大きく分けて3つある。
「水減し」「折り返し鍛錬」「焼き入れ」
「水減し」の工程で、炭素量の多い硬い鋼で、刃の部分に使用する「皮鉄」(かわがね)と、炭素量が少ないやわらかい鋼で、刀身の中心部分である「心鉄」(しんがね)に分ける。
「折り返し鍛錬」のでは、2〜3kgあった鋼が、1振りの刀の重さ、約1kgにまで、鍛錬を繰り返し不純物を取り除いていく。
硬さの違う鋼を組み合わせ、刀身の構造を作り、鋼を引き伸ばし、刀の形を形成させる
そして「焼き入れ」を行う事によって、刃文や反りが生じるのだ。
この日本刀を作る工程を、魔法陣に細かく組み込み描いた【クリエイト・ウエポン】で出来上がった刀身に「柄」と「鞘」を魔法の杖を作る木材で代用して付ける。
おまけに、銘を切る時に、いくつかの魔法陣も一緒に切り、俺が精製した魔石を取り付けてみた。
出来上がった日本刀を見た冴恵先輩。
それは、それは、喜び、すぐに試し斬りをしたいと言い出した。
この時点で、既に真夜中、魔法士ギルドにある練魔場?にある、鎧を着た案山子に向かいあっている。
瞬きをした瞬間、0.1秒程の間でそれは行われた。
鉄の鎧を着た案山子は、バラバラに切り着ざまれていた。 破片の数からは… あの一瞬で8回斬っている計算になるかな?
鎧の上から斬ってだよ?
この人、これで見習いっすよ? もしこの強さが本当に見習いレベルの強さなら、俺は素直に冒険者を諦めるな。
ちゃんとしてたら、上級、特級の強さに比類するはずだと思うんだけどな…
俺の師である、蒼炎の魔女メリスの攻撃魔法の威力から推測した結果だけどね。
確かに魔法を扱う技術は、目を見張る物があり過ぎるが、その魔法の威力は、自然現象の威力を超える程ではないと言える。
恐らく、この世界の最高の魔法の火力は、火山の爆発に遠く及ばないと思う。
まして、核爆弾並の魔法など存在、発想もないだろうな。
知らない物は、作れる訳がない。科学という概念がないんだもん。
もしかしたら、偶然できた凄い魔法もあるだろうけど、絶対数はかなり少ないはず。
まぁ、全部、俺の想像だけどな。
師の蒼炎の魔女メリス姉さんは、自分で炎の火力を上げるために、長い間、研究に研究を重ねて、燃焼するという現象を解き明かした。
そうして、彼女は空気中の中から何かは分からないが、燃焼に必要な物質を限定する事に成功し、その物質を集め増やし燃やし、蒼炎を完成させたそうだ。
俺達は、火が燃えるには酸素が必要だという事は授業で習い、当たり前に知っているが、この世界では、空気という物が何かも分かっていない。
その空気の中に燃焼するのに必要な物質があるなんて、発想を持っている者。またはそれを知っている者。
それがどれ程いるだろうか? 居たとしてもそれは、門外秘伝か、一子相伝で伝わっていく物だろうね。
それ程凄いアドバンテージのある、俺達地球出身者の成れの果ては、冒険者見習い寮で、のたれ死ぬか、コブ達の苗床なんて、笑えない。
俺達にチートは無い。
少なくとも俺にはない。 冴恵先輩には地球で努力して得た才能が、スキルという形となって現れただけで、本来言うチートでは無いと思うが…
だが、チートではなくても、この世界の住人には、ズルく見え、凄い事象に見え、チートに見える事が出来るかもしれない。
その1つが、俺が作った簡易魔剣?妖刀?を手にした冴恵先輩。
「やったよーー!! これで、私も! ソラくんと一緒に戦えるよ!!」
この日本刀には、魔道具としての1面もあるのだ。
俺が付与したその効果は、【クリーン】何時でも、何度でも、斬っても斬っても、血糊や血脂が綺麗に消え去り、刃は鏡面の様に美しく保てる。
実際、日本刀で戦い、血糊や血脂が付着した所為で、2〜3人斬ったら使い物にならなくなるという説は、デマに近いと断言しておこう。
先ず、本当に2〜3人斬ってダメになる物が、武器として使われ続けるだろうか?
それも、1千年弱もだよ?
日本刀の値段は、昔も今も高い。作るの大変だからね。
もし、本当に2〜3人斬って使えないなら、日本人はとても、物を大切に出来ない、もしくは価値の分からない民族になる。
まぁ、こんな事をグダグダ言う俺の根拠は、実は実体験からでもあるのだ。
地球にいた頃、家にあった、日本刀と同じ材料、作り方の包丁で、試し斬りを繰り返した実験をした事があったのだ。
あっ、別に野良猫とかを斬殺したとか、サイコパスな実験じゃないからね?
牛肉と豚肉のブロック、何kgもの鶏肉、ひたすら、何時間も斬り続けた。
結果を発表しよう!
それは、それは、見事なハンバーグとバターチキンカレーに変身しましたよ。
肉を切り分けている時に、一切、包丁は洗わなかったが、斬れ味は全く変わらなかった。
あれが、もし、人を斬る行為だったとしたら、何人分斬っただろうか?
実際は、骨とか鎧に当たって刃こぼれしていき、斬れ味が鈍っていったのだろう。
それは、剣の腕の問題が大きいはず。
達人級の人間が、振り続けた日本刀は、半永久的な物へと昇華される。
【クリーン】を使った意味あいは、滑って硬い骨や鉄製品に当たって、刃こぼれを防ぐ為でもあるのだ。
冴恵先輩なら、イージーミスが無ければ、半永久的にゴブレベルの魔物なら斬り続けられるのでは?
まぁ、鉄の鎧ごと案山子を何度も斬っても刃こぼれをさせない冴恵先輩の腕と、俺の作りし日本刀のコンビは最強に近いと自負する。
そして、なんと言っても、この魔剣?妖刀?の機能の2つ目、【ウインドカッター】の原理を少し変更した魔法陣。
それは風の力を利用して、刃を細かく早く振動される。超音波ブレードに近い力を発揮できるだろ。
もうね、さっきから冴恵先輩は鎧案山子を何体も重ねて、その上から斬り裂く遊びを繰り返していた。
そして、それを離れた場所から行っているのだ。要するに斬撃を飛ばしている。
うん、うん、ファンタジーになってきたね!
いいね! ちゃんとしているよ!
よし、それでは、次に移ろうか。
メインの日本刀作りは上手くいったので、後はオマケみたいな物… ではないかな?
だがしかし、気は抜けない!
パーティーの核となる職業は、盾役に掛かっていると俺は考えている。
良いオフェンスは、良いディフェンスから始まる!
盾役のタンク、ボンちゃんの装備が、俺達パーティーの生死を分けると言っても過言ではないはず。
と、そう思っていると、瑛太が興味津々な顔でお願いをしてきた。
「頼む! ソラ! 俺にも魔鉄で鏃を作ってくれないか? 鏃さえあれば、矢自体は俺が作れるからさ!」
ふむ、なるほどね、朝までにボンちゃんの装備一式を揃えなければいけないのだ。
瑛太には、鏃だけ作り与え、後は自分で整えてもらおう。
「悪いな! 鏃だけは、どうしても鍛冶屋に作って貰わないとダメだからな… それに矢を量産するには鏃って高くつくんだよ…」
「まぁ、そうだよな、深く考えた事もなかったけど… 弓の矢って、刃物を飛ばすんだよな… 金掛かるな…」
「あぁ、だから、撃った後に拾って来て、リサイクルの繰り返しさ… 貧乏が憎い…」
「パーティー内に魔道具士の俺がいるんだ、これからは鏃でも刀でも、武器購入による苦労は無しだ!」
「「おぉ〜!!」」
鼓舞する言葉に、皆、歓声をあげて喜んでいる。相当、今まで苦労してきたんだろうな…
調子乗って俺は、鏃を作っていく。
「おぉ〜! 魔鉄製の鏃なんて… それもこんなに沢山!!」
必死になって矢の制作を始める瑛太は、とても幸せそうだ。
うん、この1ヶ月で大分、この世界に馴染んだようだな。 地球にいた時は、こんな瑛太を見た事なんてなかったからな…
楽しそうな瑛太は、放っておき、俺はボンちゃんの装備制作に取り掛かろう。
ボンちゃんはタンクだ。そして【盾術】なる技を使うらしい。
聞けば聞くほど【盾術】は凄い。
攻防一体の効率の良い素晴らしい戦い方なのだ。
盾で守り、盾で殴る。
そして、ボンちゃんには【チャージ】というスキルまで持っているのだ。
攻撃を受ける度に、その威力を溜められる。
【チャージ】された物の威力を解放すれば、それは会心の一撃! 爆発的な反撃に変わる。
タンク最強説が俺の中で、湧き上がってきたよ。
盾がそのまま武器へとなる。守りとしての重厚感と攻撃し易い様に、盾の上下の縁を鋭利な刃物で覆っていく。
極めつけは、盾の中に仕込んだギミック、男のロマン武器、その名は、パイルバンカー!!
【チャージ】の解放時と共に、盾の中から射出される魔鉄製の杭。
そんなパイルバンカーが仕込まれた盾を両手に持たせる為に2枚用意。
うん、うん、出来上がったら気になるよね!
試してみたくなっちゃうよね!
分かるよ! ボンちゃん! ソワソワして、君は身体は大きくなっても威張らず、謙虚で優しいから、早く試着させろとは言えないんだよね。
「試してみる? ボンちゃん?」
ニヤッとしながら、傑作品を目の前に出す。
「ほ、本当にいいの!? こんなカッコイイのボクが使って…」
ボンちゃんよ、少し自覚をした方がいいぞ。
君はこの1ヶ月の努力で、本当に素晴らしい身体を手に入れたのだ。
このロマン武器を託すに値する。
そして、見たよ、見ちゃったよ…
何かな? このエグい破壊力…
【チャージ・パイルバンカー】とんでもない事に、攻撃を受けて【チャージ】し続ければ、し続ける程威力が上限無しに上がる。
こういうの! こういうの! いいね! ちゃんとしているよ!
もしかしたら、ボンちゃんが主役なんじゃないかと思ってきたよ?
タンクって、いぶし銀でいいな!
よし、それでは、次にボンちゃんの鎧を作るかな…
あれ? おかしいな、なんか、外が明るくなってね?
朝チュン?
趣味に走り過ぎてしまったか… タイムオーバーだ。
指南役をお願いした、上級以上の冒険者と待ち合わせは、朝一番で冒険者ギルドでだ。
地球とは違い、この世界の朝は早い。
朝一番と言えば、朝、日の出、の時となる。
「すまん… ボンちゃん… 鎧まで時間が回らなかった… 俺を罵ってくれていいぞ!」
「まったく、キミは、僕の武器もないじゃないか! それでもパーティーリーダーか! 才能がないなら余計な事をせずに、ちゃんとやれよな!」
うん、うん、その通りだが、その言葉を言うのは、性徒会長のおまえじゃないからね?
「ほれ! おまえのはこれで十分だろ?」
俺は、冴恵先輩に与えた日本刀の鞘を作って余った、魔法の杖に使う木材を蹴って渡す。
ちょうどいいサイズの杖?棒?を空中で器用に受け取る、性徒会長。
そして、その杖?棒?をクルクルと回して素振りを始める。
あれ? コイツ… ちゃんと練習済みじゃん…
残念ながら、ちゃんとしている。
本当に残念ながら、要領のいい奴だ。
「うーん、まぁまぁかな? 僕も皆みたいに魔鉄製のロッドとかが良かったんだけどな?」
「プリーストのおまえが戦う状況は、既にこのパーティーは詰んでる事になるだろ?」
適当に言い訳をしながら、俺は魔法士ギルドを後にし、指南役の冒険者へ会いにいくのだった。




