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7話 お金大事 命大事 本当だよ?


 冴恵先輩に出会ってしまってから、数十分後の事である。

 俺は、この世界に来てから1ヶ月の間で、1番後悔をしていた。 いや、後悔というよりは、辟易していると言った方がいいだろうか。


 長屋作りの冒険者見習い寮には、地球出身の多勢の人がいた。

 この世界出身者の人は見当たらない。


「なんだ、これは?」


 俺が、この冒険者見習い寮に入って、初めて放った言葉だ。


 臭いし汚いし、ここは馬小屋か?


 悪臭で吐きそうになるのをグッと堪える。


 ベッドの様な台の上に、干し草が敷かれていてそれが布団の代わりらしい。

 アルプスの少女が、気持ちよさそうにお昼寝をするイメージがあったが、もう俺にはそんな優しいイメージなど無くなった。


 冴恵先輩から、死んだ人間より、怪我をしたり病気になったりした人間の方が多いとは聞いていたよ?


 この世界に来て、死んでない人間でかつ、この寮内に留まっている奴ら、ほぼ全員ダメになってるじゃん!


 ちょっと待てよ! 今現在、下級冒険者とかになってちゃんと働いけている奴らは何人いるの?


 もしかしたら、10人とかそこらでは?


「お、おい、おまえ… 確か、1年の… か、金… 持ってるか?」


 驚き、考え事をしていると、恐らく3年の男子生徒だった人間が話しかけてきた。


「えっと… 誰?」


 汚い身なりをした、その男の様子を観察してみると、足を引きずっているのが分かった。


 この世界に来てから、何かで怪我をしたのか、元々そういう体だったのか…

 判断は出来ないが、コイツの態度は気に食わない。


「金はあるが、お前に構っている暇はない」


 適当にあしらっていると、奥の方から、おばさん?が出てきた。


「あっ、八代先生! 聞きたい事があるんですけど!」


 冴恵先輩が、八代先生とやらに問い掛けている。


 八代先生とは、英語の教師で俺も何度も授業を受けていたはず。

 だけどね? 俺の目の前にいるその八代先生は…


 言ったらいけないと思うんだけどね…


 老けていらっしゃるのね…


 1ヶ月で人間ってここまで老けれるものなのかね?


「や、八代先生… どこかご病気で?」


「はあっ? 私は元気だが何か? What happened?」


「そ、そうですか! お元気でなにより…?」


 あっ、化粧してないだけ?


 うん、触れないでおこうね…


「そう言えば、聞きたい事があるとか? 何だ?」


「瑛太くんの宿がどこか知っていますか?」


「あー、瑛太か、確か… 風見鶏亭とか言う宿にいると言っていたぞ! それより、おまえはこの1ヶ月間何をやっていたのだ!? 瑛太も冴恵も仕事をしたら、少しでも皆の為にと、お金を置いていくというのに… この現状を見て何も感じないのか? おまえは!?」


 何故だろう? 俺に対して説教が始まってしまったよ?


 おかしいな? 俺なんて、この世界に来てその日に、日本円で2千万円以上もの大金貸してあげたよね?

 あー、俺が貸した事になってないか…


 よし、全て無視しよ。 風見鶏亭ね! そこに行こう。直ぐに行こう。 なんかこの場所は居ちゃいけない所だ。


 寮を出ようとしたら、ベッドに横になりながら、こちらを睨んでいる奴と目が合ってしまった。


 野球バカのヤンキーROOKIES?何とか先輩だ。


 この人… もう野球できないね… 片腕、片足、うん、うん、これから大変だろうけど、あんなに威勢の良いガッツのある先輩だ。

 何とかなるだろう。


「真理達の事… 頼む… 助けてやってくれ…」


 真理さんって、ゴブ達に攫われた人達だよね。


「もしかしたら… あんたが、女性陣置いて逃げ帰ってきた人っすか?」


「ああ… そうだ… すまん…」


 言い返す気力も無さそうだね… 

 何を言っても過去は変えられない。


 バカみたいに、調子乗ってこのザマなんだろう?

 見習い寮にまだ住んでいるって事は、下級になってないのに、城壁の外へ出て魔物を討伐する予定だったとかなんだろうな…

 人を巻き込んで、しかも、女性には最悪の死に方をするだろう結果を呼び込んだ。


 コイツに関わる時間が勿体ない。瑛太を探しに行こう。


「何だよ!? 何か言えよ…」


 後ろから、野球バカの声が聞こえた気がした。


 何か、八代先生も言っている気がするが、無視が1番。




 寮を出たら、どんよりした冴恵先輩が話しかけてきた。


「はぁ、空気悪かったでしょ? 最初はみんな張り切って、冒険者やろうとしてたんだけどね… 何でだろうね… 何故かどんどん悪い方向に進んじゃって…」


 何でだろって… そりゃ、ルールを守らず勝手にやれば怪我するだろ。死ぬだろ。

 

 はぁ… そして、これから俺がやろうとしている事も、ルール違反ギリギリではないだろうか?


 うん、たぶん大丈夫! イザとなったら誰かに責任押し付けて、って、誰にだよ…


 恐らく、冴恵先輩は精神的にいっぱいいっぱいな感じ。

 友達がたくさんいそうな、冴恵先輩の事だ、死亡した人、怪我した人と仲が良かったんだろうな…


 それでも気丈に振舞って…

 いや、ギリギリで俺に助けを求めてきたのかな?


 あれ?あれ? 俺って頼られてる? いや、好かれて… うん、ないよな。


「ところで、冴恵先輩…?」


「うん? なーに? ソラくん?」


「風見鶏亭ってどこにあるんすか?」


 冴恵先輩も場所を知らなかったようで、直ぐに近くにいた人に聞いてくれた。


 そのコミュニケーション能力、羨ましい。


 風見鶏亭に着いた時には、日も落ちてきていた。

 冴恵先輩は、宿の主人に瑛太がいるか聞いてくれる。


 うん、俺って本当に使えない。


 しばらく待っていると、主人が瑛太を部屋から連れて来てくれた。


「あれ? ソラじゃん! 久しぶり!」


「お、おう、我が友瑛太…?」


 何故か、瑛太が大人に見える。身体が一回り大きくなって筋肉がついたのかな? それとも顔が凛々しくなったからかな?


 ちゃんと冒険者として、頑張っていたんだと分かる。


「どうしたんだ? 用があるにしても、おまえから訪ねてくるなんて… 余程の事か?」


 察しがいい。 流石、我が友なだけあるな。


「あー、緊急だ。パーティーを組むぞ!」


「おう、いいぞ! 1つだけ条件があるが…」


「よし、条件飲んだ! パーティー組むぞ」


「おい、おい、何も聞かないのかよ…」


 瑛太はここまで、間違わずにちゃんとやっている。

 その瑛太が出す条件だ。ちゃんとしている物に決まっているさ。


「おーい、こっち来てくれー!」


 瑛太が人を呼んだ。そして、現れたそいつは、大きい。縦にも横にも。だが、別に太っているとかではないのだ。


 背が高く、2m程あるだろ。それに合わせて、分厚い筋肉に覆われている。

 誰だコイツ?


「やぁ… ソラくん、久しぶり…」


 本当に誰だよ? 久しぶり? 俺の知り合いって事は、この世界に一緒に来た123人の内の1人?


 俺は自慢ではないが、学校に友達は少ない部類だ…


 話した事がある人物は極わずか。


 さてはて、全く記憶にないぞ。


「あー、ボクは少し筋肉が付いたから、1ヶ月前とは少し変わっちゃったから分かりずらいよね…」


 大きい図体で、少し高い声で話す違和感の塊のような男。

 1ヶ月前と少し変わった? 誰だよ???


「コイツ、ボンちゃんだよ! 凄くないか? この身体! それで、パーティー組む条件は、ボンちゃんも一緒にだ!」


 瑛太が、ボンちゃんと呼ぶその男は、地球にいた頃は、その太った体躯にキョドっている態度で、学校でよく虐め?からかい?を受けていた人間だ。


 この目の前に佇む大男とは、似ても似つかない。


 話し方も挙動不審な感じはなく、落ち着いた感じで、優しそうだ。


 我が友、瑛太よ、コイツは、NOボンちゃんだろ?


 近付いてくるNOボンちゃん。後ずさる俺。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! NOボンちゃん!」


「NOボンちゃんって何さ… ボクは、ボクは、ソラくんみたいになりたくて… この1ヶ月間、頑張って、頑張って…」


「はい? 俺みたく? 何故よ?」


「ボクは、ソラくんに、助けてもらってばっかりだったからね! 憧れてたんだ!」


 俺が、ボンちゃんを助けた? いつの事だ? そんな1つも記憶ないぞ?


 おかしくなったのは、俺か、NOボンちゃんか?

 確実にNOボンちゃんが、変! それも圧倒的に変!


「ま、まぁ、それより、おまえ、その身体どうしたんだよ…? 前はもう少し、こう、なんていうか… 丸くていらっしゃったじゃない?」


「そうだね! 地球にいた頃のボクは、運動不足だったもんね! こっち来てから、ちゃんと運動するようになったら、背も伸びて、やっと男らしくなったよ」


「そ、そうか… うん、よかったね… 我が友、瑛太くん、少し話しがある」


 俺は、瑛太を呼び寄せる。


「おい、俺の知ってるボンちゃんはアレじゃないのだが? アレはなんだ?」


「ボンちゃんだって! タンクギルドに入ってから、頑張って鍛練したらしいぞ!」


「いや、いや、頑張ったくらいで、1ヶ月で、ここまで人間の外見って変わるものですかね?」


 瑛太から話しを聞かせてもらっている内に、なんとか理解できてきた。

 盾役のタンクギルドは、そもそも人気がない。


 地味だし、痛いし、そりゃ、やりたがる人は少ないだろうな…

 それでも、パーティーに、盾役がいるのといないのとは、討伐効率の差は如実に現れるだろう。


 盾役はタンクではなく、剣士とか戦士とかでも代わりになるが、ヘイトを稼げるタンクには敵わない。


 盾役には、どれだけ敵を自分に振り向かせる事が出来るか、そして、それを成し得る技と身体が必要になる。


 タンクギルドでは、ヒョロでもデブでも少ない人材を盾役にさせる為に、身体を作る術があるらしいのだ。


 相撲部屋の若い力士が、身体を大きくする為にやらされる方法とは違うだろうが、似たり寄ったりの方法かは分からないが、身体を文字通り大きくされた、ボンちゃんは強いらしい。


 あの、ヨワヨワでぽよぽよだったボンちゃんがね…


 ムキムキのデカデカだよ? この世界は人権とかその他もろもろのシステム、概念は、ほとんど見受けられない。


 変な薬物とか使われていない事を祈ろう。


 ボンちゃんを見ていると、その身体になれた事は満更でも無さそうだし、本人が気に入っていればいいのではないだろうか? 他人に迷惑かける訳でもないし、強くなれているなら、ちゃんとしている部類の人間だ。


 パーティーに盾役は必須だと思っていたから、ボンちゃん、OK! OKボンちゃんだ!


 因みに、瑛太は狩人ギルドに入っているらしい。

 目が良かったのは、【鷹の目】と言うスキルのお陰だったそうで、【弓術】のスキルも持ち合わせていた瑛太にはピッタリの職業ではないかな。


 斥候が務まる、狩人と盾役のタンク、そして、【天剣】スキル持ちのアタッカーの冴恵先輩。


 思っていたより、いい!


 後は、出来たら回復役の職業がいればいいんだけど…

 パッと思い当たる人物は、1人。

 生徒会長…


「ねぇ、冴恵先輩、生徒会長って今どこに?」


「うん? 性徒会長? 裏町の性者様ね… 裏町をブラついていれば会えるんじゃない?」


 あれ? 俺の聞き間違い、聞こえ間違い、だろうか?

 性徒会長? 性者様?


 


 俺達は、裏町をブラついる。 こんな事で生徒会長に会えるのか? まぁ、冴恵先輩を信じれば会えるらしい。


 冴恵先輩は一応着いてきてくれているが、本当に嫌そうな顔た。


「ちょっと! この泥棒猫! 聖者様は家に泊まって行くって言ってるのよ!?」


 1軒の家の前から女性の怒鳴り声が聞こえてきた。 泥棒猫って言う人初めて見たよ。


 女の人が2人髪の毛を引っ張り合いながら、罵声を掛け合っているのだが、その間に挟まれている男が1人ニコニコと佇んでいる。1ヶ月経ってもコイツは変わらないな…


 あー、コイツ、ダメな奴ね… 性徒会長に性者様。


 うん、うん、冒険者見習い寮にいる奴らを見捨てて、女の所に転がり込んだのね。

 異世界転移を楽しんでるようで、良かった、良かった。


 でもね、何だろう? とりあえず1発殴っておきたくなる衝動に駆られるな。


 性徒会長の奴、この場の女性達の喧嘩を執り成す事を諦めていたらしく、俺が現れたと同時に、


「すまない、仔羊ちゃん達、どうやら仕事が入ったようだ! やぁ! リーダー! 早く仕事に行こうじゃないか!」


「そうか、そうか、やる気があってくれて助かるよ!性徒会長! って、リーダーって俺か?」


 俺は歩きながら、今回のミッションを話していく。


「えっ!? それって、無理ゲーでしょ? 絶対、女の子達生きてないでしょ? それにゴブ達の巣に潜入するなら、何百匹、何千匹の相手をしないといけないんだよ? 分かっているのかい?」


 うん、その通り、頭の回転が早い性徒会長の事だからね、もう理解できているだろう。 そう、俺達はその無理ゲーをクリアしようとしているのだ。


「勝算はあるのかい? 僕の情報網では、ソラくん、君、凄い儲けているらしいじゃないか! その金で上級の冒険者でも雇ってみるかい? それでも…」


 うん、そんな依頼を受けてくれる冒険者はいない事も分かっいるんだろうな。


「まぁ、まぁ、これから冒険者ギルドに依頼を出す気はあるよ? でも、依頼内容は討伐、救出、依頼ではないよ?」


 そう、俺は最初から受けてくれる人のいない、ゴブの討伐、女子生徒救出の依頼なんて出す気はない。




 俺達は、冒険者ギルドに着くなり、受付嬢の前へと進み出た。


「すみません… 依頼したいんすけど…」


 どうも、こういう事をするのは気が向かない。

 誰か代わってくれないかな? あっ、性徒会長にお願いすれば良かったけど、彼でも俺が何をしたいのか分かっていないようだ。

 わざわざ説明するのも面倒臭い…

 いいや、頑張ろ…


「いらっしゃいませ、冒険者ギルドのご利用ありがとうございます。 それではご依頼内容をお聞かせください」


 登録をした時とは違う、ちゃんとしていそうな受付嬢が出てきた。


「あー、えーと、なんて言うか… 指南役の募集でいいのかな?」


「指南役でございますか? 何についての指南をご希望でございましょうか?」


「そうですね… ゴブリン討伐と、攫われた女性の救出の指南役をお願いします」


「えっ… それでしたら…」


 そう、俺が依頼をしたいのは、討伐と救出のやり方を教えてくれる人を、紹介して欲しいという事だ。


「依頼内容は、討伐と救出の成功は問わずだが、やり方を指南してくれ、俺達の身の安全を保証してくれる上級以上の冒険者の募集だ」


「畏まりました。 その内容でなら受けて頂ける冒険者の方もいると思われます。しかし依頼料は上級以上の冒険者となりますとそれなりに頂く事にはなりますが…」


「依頼料、金貨1000枚! 女子救出成功時、追加報酬金貨500枚有りで!」


 大声で依頼料金を告げて、受け付け台に金貨の山を出していく。

 

 冒険者ギルド内にいる冒険者達から歓声が上がる。

 どうよ? 全財産… くぅ… 命って大事だからね…

 たった1億5千万円くらい…

 いや、安い物じゃないからね?

 お金、大事!!


「畏まりました。 それでは… そうですね、明日の朝までには、依頼を受けて頂ける冒険者が決まると思いますので、朝一番で当ギルドにお越しくださいませ」




 俺達はザワつくギルド内を出て、魔法士ギルドへと向かった。


 準備が朝までに終わるといいのだが…

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