3話 お金の話し
「おい! てめぇ、街があるって本当にだよな! 嘘だったらぶっ飛ばすからな!」
野球部の格好しているのに、金髪のヤンキー?どこのROOKIESさん?が話しかけて… いや、脅してきたのである。
あー、本当にめんどい…
何で俺が… こんな時代遅れヤンキーに絡まれなきゃならんのさ…
「てめぇ! 聞いてるのか!?」
「あー、えーと、そこに道が見えませんか?」
「これが、道かよ…」
「舗装はされていませんけど、道が続いていますよね? 右側にも左側にも街はあると思いますよ… どちらに行きたいですか?」
「はぁ? そんなの俺が分かる訳ねーだろ! てめぇが知ってるんだろ! 早く教えろ!」
「では、何で俺が分かると思うんですか?」
「そんなの、魔法ってやつだろ?」
「いえ、いえ、そんな魔法知りませんがな」
名前も顔も知らないが態度から恐らく先輩だとふんで、頑張って敬語を使う。
「じゃ、じゃあ、なんで街があるって言ったんだよ!? てめぇ、マジで殴るぜ」
おう、おう、拳で訴えようと? はん、そんなモノ…
俺はソッと冴恵先輩の横に行き、後ろに隠れる。
何か問題でも?
「普通に考えれば、道があるってことは此方から彼方へ行く為の物です。知っていますか? 道の先には物凄く高い確率で人が住んでいるんですよ」
「そ、そんなの当たり前だろが! ナメてんの?」
ヤンキー様が怒ってなさる…
どないしよ… ちゃんと説明してるのに…
「まあ、まあ、要するに… 左側、右側、どちらに行っても街に辿り着けるって言いたいんでしょ? どっちにしようかね〜??」
冴恵先輩が助け舟に入ってきてくれた。マジ天使。
「ちっ! どっちでもいいなら… 俺は左に行くぜ!」
ぷぷぷ〜 The 左側パラダイスの法則炸裂!!
この野球バカヤンキーは単純… 純粋…
さらば、良き旅を! 未来のあるかもしれないヤンキー先輩。
「はい、街は右側だね… 君って分かりやすいね」
「てめぇ、今、野球バカヤンキーって思ったろ!」
俺はヤンキー先輩に殴られ、生徒会長に笑われ、何故だ!? 何故俺の考えが解ったんだ!?
この人達怖いっす… 本当におニューなタイプの人達なのか。
「君って… 名前… 空くんだっけ? ポーカーフェイスって知ってるかな?? 頑張るんだぞ」
冴恵先輩がフォローしてくれた…
ポーカーフェイスの達人に向かって頑張れだと…
俺は… もしかして… ポーカーフェイス出来ていないのか…?
雷に撃たれたような衝撃を受け、蹲る俺を一瞥しながら皆右側の道へと進んでいく。
もう1人になりたいでござる。
とぼとぼ歩いていると、またあの野球バカヤンキーが絡んできた。
「オラ、てめぇ、こっちに行きたかったんだろ? なぁ? まだ着かねぇのか!?」
「あー、30km以上あるからね…」
俺の言葉に周囲から俺に対して怒号が飛んでくる。
あれ? おかしいよね? 俺がなんかしたっけ?
早くコイツらから離れないと、どんどんと調子乗ってきて、使い潰される未来しか思い浮かばない…
さて、どうやって逃げるものか…
「おう〜、我が知り合いの空さんよ、今向かってる街はどんな所だった?」
「おっと… 友見習いからも落ちて、知り合いに… 大きな城壁都市だと思う…」
「そっか… 城壁が大きいって事は… そこを襲う敵も大きいか多いか… なんて事は…?」
「さあな… 基本的に敵の侵入に対する対策が欠かせない地域だと、城壁が発達するのが地球の歴史だもんな〜 この世界も同じなら… 今は考えないでおこう… とりあえず安全地帯の確保優先だ」
「あぁ… そうしますか… 危険な時は頼むよ、我が友、空よ」
急に友へと復帰した瑛太と話しながら歩いていく。
どれくらい歩き続けたか…
30数km踏破! 城壁都市に到着したのであった。
「ちゃんと並べ! 城壁都市パルマへようこそ! 入領税は1人1銀貨だ!」
あぁ、やっぱりあるよね、入領税。
100人以上いる学生達。綺麗な制服が珍しいのかジロジロ見られる。
そのジロジロ見られている学生達からジロジロ見られる俺。
俺は学生の塊をすり抜け、先頭に立つと悠々自適に門の中へと入って行く。
だか、俺の襟首を掴んで離さない奴らがいる。
まったくもって不愉快だ。
「おい、俺達の入領税!」
「はぁ? 何を仰っちゃっているかサッパリ分からないのですが?」
「オラ、金寄越せ!」
「先生がお金の管理をした方が良いと思うんだ! 君の持っているお金を渡しなさい!」
あれ?あれ? なんか先生まで出てきたよ?
名前なんだっけ? まぁ、いっか…
さて、どうしたものか、ただ今の全財産は銀貨と見られる物が25枚、銅貨と見られる物が87枚。
入領税1人、1銀貨だから25人入れる。しかし、恐らくこの街に入るだけで俺はどう生きていくのか?
安全第一で生活環境を整えるのが当面の目標なら、やはりお金はあるだけ良い。
例えば、商業ギルドや、冒険者ギルドなるものがあった場合、そこに入らねば仕事も出来ない。出来ないどころか生きていけないではないか!
ギルドの入会金がいくらかは分からないが、入領税の前後のお金がかかるとしよう。
「あの〜 すみません〜 ここって冒険者ギルドとかあったりしますか??」
冴恵先輩が門番に聞いている。
おう! その方法があったか! 人に聞く! それ最速。
「そうかそうか、冒険者志望か! それなら入会に1銀貨掛かるぞ!」
「そうなんだ〜! 入領税と一緒だね!」
楽しそうに、冴恵先輩と門番が話しこんでいる。
1銀貨か… 冒険者で働くとしても道具とか必要になるだろうし…
「ねぇねぇ、門番さん! ゴブの魔石って幾らになるかな??」
「おう! ゴブリン討伐してくれたのか! 報奨金と合わせて銅貨10枚だぞ! 何匹倒したんだ?」
「えっと… 確か… 70匹くらいかな?」
「70!? ゴブリンの集落でもできちまったか… 討伐依頼出るかもな… あっ、70匹なら7銀貨だな」
なるほど… 銅貨100枚で銀貨1枚ね…
俺は門を1人で潜ったが、門番に銀貨3枚を投げてやる。
「冴恵先輩… 生徒会長! 行きますよ!」
その瞬間、とんでもない怒号が俺に浴びせられるのだった。
少しちびるかとおもったぞ!?
俺は皆の方へと向き直り、手を上げ静止を促す。
だが、俺の言う事なぞ、コイツらが聞く訳ないか…
「あー、あー、とりあえず聞いてくださいー、俺は皆さんの事を信用も信頼もしていません! 先生方は何1つ我々を導く事も考える事も放棄しているようですし、今ある少ないお金を使うに値はする人間だけに分けます! そして、その代償として我が友、瑛太をあなた方へ譲渡しますので、遠慮なく俺の代わりに愚痴を言いまくってください! それでは! アディオス!」
「おい!おい! コラ! 待て〜〜 空〜〜」
人は前に進む為には、時に、大切な何かを切り捨てるしかない時もあったり、なかったり…
さらば、友よ!
俺は振り向かず、門を抜ける。そこは、ファンタジーに溢れた中世ヨーロッパの街並みに似ている異世界転移の定番だね。
「さて、空くん! ここからは僕に任せてもらおうかな!」
生徒会長が鼻息を荒くして迫ってきた。
「それで、どうするおつもりで?」
「一先ず、金を作る! 錬金術をお見せしようか」
「おぉ〜、生徒会長、錬金術使えるようになったんだ!? 凄い! 俺の人選は間違っていなかった…」
「ははは! 錬金術という名の金策さ! さあ、行こう! 冒険の始まりだ!」
あれ? この人… もしかして… ダメな人だった?
俺達は商業ギルドへとやって来た。今更不思議に思ったのだが、言葉も文字も理解出来るし話してもいる。
何でだ? 気になるが今は置いておこう…
ウチの生徒会長が心配だ…
「あー、そうだった、空くん、君のその万年筆なんて良いのでないかな?」
俺の制服の胸ポケットに刺して持っていた万年筆を指指す生徒会長。
うん、悪くない。
「えっ!? 何? 何?」
冴恵先輩は解っていないようだが、実際に商談を見せた方が楽しんでもらえるだろうな。
「いらっしゃいませ。 商業ギルドへようこそ。 お客様、今日はどのような御用でございましょうか?」
商業ギルドへ入った途端に、ギルド職員がすぐさま駆けつけてくれた。
「ご丁寧にありがとうございます。 今日はギルドに登録と売りたい物があり、そのご相談をしたいのですが…」
生徒会長が、少し仰々しくお辞儀をする。
「はい、かしこまりました。 こちらへどうぞ」
丁寧に案内された先には、モノクルを掛けた老齢な紳士がいた。
「お待たせ致しました。 本日はよくお越しくださいました。 ギルドへの登録と売りたい物があるとか? 直ぐに準備致しますね」
商業ギルドに登録するのは、一旦俺だけになった。
1銀貨を払い、直ぐに登録が完了し、俺は商売をする権利を獲る。
さて、ここからが本番だ。どこまで金を稼げるか…
生徒会長の腕の見せ所だ!
「無事なご登録おめでとうございます。さて、それでは、売りたい物があるとの事で…?」
登録を進めてくれた、老紳士が話しを振ってくれる。
この街に入った所から、気づいた事があった。それはこの街の人達は皆、物を書く時には羽根ペンを使っていたのだ。
お洒落優先の伝統があるとかの場合を除いて、文字を書くという行為が発展していない、識字率が低い可能性。
それは、商業ギルド登録の時に確信を持てた。
自分の名前を書く時に、代筆をするか求められたのだ。
何故か文字が書けた俺は頼まなかったけれどね。
古代ヘブライ語に似た文字だな〜と思った。
昔、昔に地球と交流があったりしたら面白い。
おっと、話しがズレてしまった…
要するにだ! 文字を書く仕事をする方々、それはイコールして金持ち、貴族関係者とかになるのではないだろうか?
そんな方々が、この俺の爺様から高校入学時に貰った、お洒落万年筆を見て、使用したらどう思うか?
俺はギルド登録時に名前を書く時、ワザと羽根ペンを使わず、自分の胸ポケットから万年筆を取り出し、名前をインクに付けずにササッと書いて見せた。
老紳士が見せた驚きの顔、すぐ様元の好々爺の顔に戻ったが、それを俺は見逃さなかった。
これは売れるぜよ!
「はい、豪に入れば郷に従えと申しますし、今、僕達が着ているこの服を売って、この街の人が着ている普通の服が欲しいのですが…」
「ふむふむ、そうですな… お見事なその服装… まるで貴族様の学生服に似ておりますな。 少々じっくり見せて頂いても?」
老紳士の提案に、俺達は制服を脱ぎ渡した。
「ありがとうございます。 この服ならば、それぞれ金貨3枚でお買い上げいたしましょう。3人分合わせて金貨9枚でいかがでしょうか?」
出ました、金貨! それは銀貨何枚分なのだい?
「ねぇねぇ、空くん、金貨だって! 銀貨より凄いよね!」
冴恵先輩がはしゃいでくださる。
「金貨… そうですな… 銀貨10枚分になりますな」
「そうですか… 因みになのですが、この街の平民1人が食べる1食分の費用はおいくらになりますか?」
「そうですね… 人それぞれと言い足しておきますが、約、5銅貨あれば食べれると思いますぞ」
ふむふむ、銅貨1枚≒100円くらいと見ておくかな。
なので、銀貨1枚は銅貨100枚なので約1万円、金貨は銀貨10枚なので10万円ってとこなのかな?
そこで、制服は金貨3枚の値がついた。約30万円。
うん、高い。この世界はまだ産業革命は起きる前の世界かな?
制服の様なきちんとした服を作る作業は、手練の職人しか作れないってのは普通に考えられる。
もしかしたら、魔法でちゃちゃっと作れる可能性もあるが…
「この制服のデザインは、斬新で最新。この服を作れる者はなかなかいないのではないのですか?」
生徒会長のその言葉に、老紳士は静かに頷く。
「それに、この生地をよく御覧になってください。 こんなしっかりとした綺麗な生地を見た事は?」
「ふむふむ、なかなか、そうですな、この生地は私が見てきた物の中でも最高級に値する物ですな…」
「そうでしょう、そうでしょ、そんな生地で作られた服など、早々これから手に入れることは出来ないと存じ上げますが…?」
生徒会長は大げさに、胸に手を当て姿勢を低くする。
「3人分、キリよく金貨10枚! いかがでしょう?」
生徒会長VS老紳士のこれは戦いと言ってもいいだろう。
「そうですな… これからこの服が3着しか手に入らなければ金貨10枚でも良いのですがね… 城門の前にゾロゾロと同じ服を着た者達がいるとなると…」
あー、この老紳士、知ってるんだ。 俺達が多勢でこの街に来ていて、全員がまだこの街に入っていない事も、その理由がお金がないって事も。
商人は情報が命ってどの世界も同じか…
「ならば! 金貨3枚! それで、これからもその値段で買い取って頂けないでしょうか? 門の前にいる者達以外は確実にこれから手に入る事はありません!」
「ふむ、そうなのでしょうな… 信じましょう」
老紳士は頷く。生徒会長の話しを真実と断定したようだ。
この世界って魔法あるよね? もしかして嘘とか分かる魔法なり魔導具なりあったりするのでは?
あの、老紳士か掛けているモノクル… 魔道具とかじゃなければいいんだけど…
「分かりました… これからその服の買い取り値段は、金貨3枚を基準にいたしましょう。 傷みの酷いものなどはその対象外にはなりますが?」
「はい、それでお願いいたします」
「それでは、一先ず合計の金貨9枚を」
老紳士は楽しそうに、金貨を積み上げ、コチラをチラ見してくる。
うんうん、初戦、準備運動、が終わった感じよね?
恐らく、生徒会長の狙いは、銀貨240枚以上を手に入れる商談が目標だろうな〜
俺なら、ここで商談は終わらせ、さっさと冒険者ギルドへ向かうが…
安全第一の生活環境の為には、誰かに恨まれていては良くない。
しかもそれが、同郷の100名以上の恨みとなるとこの街での生活は安全と言えるだろうか?
仕方なしかな… 生徒会長の狙いに付き合うか…
俺はテーブルの上に万年筆を乗せる。
これが、俺の武器だ。
「これは、これは! 先程も拝見させて頂きましたが、素晴らしい魔道具ですな!」
なるほどね〜、魔道具ときたか…
生徒会長が俺の肩に手を置き、立ち上がる。
「魔道具とは、魔力を元に動く仕掛けの物という認識でよろしいでしょうか?」
「そうですな… 魔道具と言えば、魔力を原動力として扱う道具の総称と言って良いでしょうな」
老紳士は何故か楽しそうだ。
「ありがとうございます。 それではこれ… 万年筆と言う、ただの物でごさいます。 魔力が原動力ではないく、ただの人間の知恵より生み出されし至宝にてございます」
「ほう、ほう、ほう、魔道具ではないと? ただの知恵で魔道具に並び勝つと?」
「はい、因みに、この万年筆が魔道具だとしたのなら、おいくらで買って頂きますか?」
「ふむ、そうですな… 装飾が施された魔道具となりますし、実用性は見させて頂きました所、羽根ペンより使いやすいのが見て取れますね… 少し手に取ってみてもよろしいでしょうか?」
「はい、どうぞ」
生徒会長は、俺の万年筆を老紳士に手渡す。
それ、俺のだからね?
老紳士はじっくり万年筆を見渡し、驚きの表情を出す。
商人がそんなに表情豊かで良いのだろうか?
それともワザと?
そろりと、万年筆の蓋を外し、羊皮紙と思われる物に何かを書き出した。
「お、おぉ〜〜!! 素晴らしい書き心地ですな! これがペンの感触ですか!? これでも魔道具ではないと? これ程の物ならば… 金貨100枚… いや、金貨300枚は出してもいいかもしれませんね…」
「「「はい!? 金貨300??」」」
俺、冴恵先輩、生徒会長、それぞれ驚きの声を上げてしまう。
「はい、商人を始めて50年以上になりますが、こんなに素晴らしいペンは見た事がありません。 それに万年使えるとは…」
あー、万年筆だから万年使えると思ったのかな?
そんなに使える物はないですよね?
生徒会長の目標だろう銀貨240枚以上、金貨にしたら24枚。
それは、この世界に転移させられた俺達全員がこの街に入領でき、ギルドへと登録して仕事が出来るようになるスタートラインに立てる値段だ。
まぁ… 生きて行く最低ラインの値段だけどね…
金貨300枚。 1食5銅貨で1日2食に切り詰めて、銀貨1枚で10人が食っていける。
123人で金貨12枚と銀貨3枚が1日の食費だ。
宿代が幾らになるかはまだ分からないが、全員で20日程度過ごせれるかな?
直ぐに仕事が上手くいって、稼げるようになる生徒達がどれ程いるだろうか?
20日間で、123人全員が生活の宛が出来る日数とは思えないけど、俺1人が皆の生活を面倒みる訳ではないので、金貨300枚で一先ず大丈夫だとは思う。
思うが… 生徒会長を見ると、楽しそうに笑っている目はまだ鋭い。
うん、ここで終わるのはつまらないよね。
「申し訳ございませんが、我々がお売りしたい物は、この万年筆その物ではないのですよ…」
「ほう? それでは何を?」
老紳士の目も鋭くなる。
「そうですね、簡単に説明いたしますと、特許料を頂きたいのですよ」
「特許料…?」
「はい、我々はこの万年筆の著作権者、貴方がたは作成、販売者、1つ売れる度に特許料金を頂く権利を求めているのです」
「なるほど、なるほど、この万年筆を我々が作れなければどうするのです?」
「それは、心配なさらずに。 彼がその万年筆の原理、作成方法を知っておりますので、腕の良い職人を紹介して頂ければ、それ程時間も掛からずに本数も揃っていくはずです」
「ふむ、腕の良い職人の紹介で、この商業ギルドが直接販売… 皆さんは技術の開示提供とこんな所でしょうか?」
「はい、その通りでございます。 いかがでしょうか?」
うん、悪くはない取り引きになるとは思うけど…
勝手に俺が、万年筆の作り方を知ってるとか言わないでほしいものだ。
もし、俺が知らなかったらどうするつもりだったんだよ? あー、この人も作り方しってたな?
まぁ、喫緊の先立つ物を確保できるのかな?
不安になるが、交渉事で他の人間が出ていくと、あげ足取りされたり、言った言ってないの水掛け論に発展する事もある。
基本、交渉人は1人で、交代は無しが好ましい。
口は出すまい。 生徒会長に任せた過去の俺を信じよう。
「確かに、この万年筆が作れるようになれば、計り知れない需要が見込めますし、単価も高く維持していける物なので、当ギルドも投資し易い商品になるでしょう。 そこで特許料でしたか… そのような取り引きは今まで行った実績はないのですが…」
「それならば、1本売れる事に、その売り上げの3割ではいかがでしょう?」
うん、うん、利益の3割じゃなくて、売り上げの3割で、俺も賛成。
それにしても、3割ってさ… ふっかけ過ぎだろ、生徒会長よ!
確か、日本の薬とかの特許料って3%〜5%くらいじゃなかったっけ?
10倍かよ!
「3割で… よろしいのですか? 5割から4割、いや、それ以上を求められるかと思っていましたが? それ程の発明ですよ?」
「はい、その通りかと…」
おい、おい、生徒会長、何その通り!みたいな顔してるの? 内心は高くついて驚いてるはず!
いや、驚いてるのは俺だけか?
この生徒会長…
「その安くなった分、この万年筆の特許料を担保に、我々に融資をお願いできないでしょうか?」
「ほう、ほう、ほう、ほう、なかなか。 それが目的でしたか…」
この老紳士、怖い笑顔だ… 知ってる、こういう笑顔の人達って怖い人種だ。 気を抜くと全て持っていかれる。
あんまり近寄りたくないが…
生徒会長に任せて良かった…
「それで、お幾ら程、必要になりたいと?」
「そうですね〜、この万年筆、1本分の値段と同等の資金を融資をお願い致したい」
「ふむ、金貨300枚程の資金を、商人になったばかりの貴方に融資しろと?」
「いえ、いえ、僕にではないですよ。 この隣に座っているソラくんにです」
「・・・」
何、その沈黙… 失礼じゃね? あー、見定められてるのね…
「失礼ながら、キヨマサ様のその貫禄と度胸と知恵には融資先としては合格だと思いますが… ソラ様でしたっけ? 貴方は…」
「このソラくんが不合格だと? この万年筆の持ち主であるだけでも価値があるでしょ? 特許はソラくんの物になる訳ですし」
もっと言ってやってください、生徒会長!
「持っている物ではなく、持っている人、それが1番重要なのですよ…」
「その人が、僕が彼を押す理由だと言ったら?」
うん、なんか自分の目の前で、自分の価値を話しあっている現場にいると、冷や汗でるな…
「彼は、これからこの万年筆以上の物を作っていく人物です。確かに彼はコミュニケーション能力には欠陥があるかもしれませんが、そんなモノ僕が補えばいいまで、彼の叡智はこの世界でもトップレベルに数えられるはず」
おい、どう考えても上げすぎだろ!
「キヨマサ様、貴方がそこまで言うとは… ソラ様は本当にコミュニケーション能力が低いのですね…」
「うん、うん、この子、言わなくていい事すぐ言っちゃったり、顔に出るし、皆に嫌われるんだよね!」
冴恵先輩… そういう事言う方がコミュニケーション能力低くね?
あっ、でも、皆から好かれてるのは冴恵先輩ですよね…
何故だ…!?
「そうですね、万年筆を持ち込み、この商談の流れを作った事を評価し、ソラくんに融資いたしましょう!」
ふぅ… 聞いてるだけで疲れた。
「やったーー!!! ソラくん凄い!!」
「いや、いや、冴恵先輩… 凄いのは生徒会長なんですよ?」
冴恵先輩からの賞賛は受け取る気にならない、俺という人間の矮小さに情けなくなっただけだ。
まあ、後、解った事は生徒会長は敵に回すと厄介だという事だね。
金貨がどんどんテーブルに並べられていく。
そして、この街の住人が普通に着ている服を用意してもらった。
「この服の料金は3人分、我がギルドがお持ちしましょう! この出会いが良きものとなったお礼でございます」
「我々にとっても素晴らしい経験でした。 恐らくこれからもお世話になると思いますので、これからもご鞭撻の程、よろしくお願いします」
何の気負いも感じさせずに、老紳士と握手をしている生徒会長。 うん、大物だね…
だって、俺はこの紳士と握手するの怖いもんよ…
兎に角、俺たちは目標の金貨24枚を大きく超えた、金貨300枚を手に入れたのだった。




