12話 ほろ苦い
人を殺した。
「あれはもう人じゃねぇ… ただの苗床だ…」
ロダンの言葉は、この世界では正しいのかもしれない。
しかし、日本で生きてきた俺の常識からすると、ただの人殺しだよ。
俺が、さっき作った新魔法【リジェネ】とかで、身体を治してあげたりとか…
精神的なケアは大変だろうけど、時間をかけて皆で頑張ってやっていけば、どうだったろうか?
「苗床になった女を今まで、何人も治療、介護した話しはあるがな… まともに治った話しなんて聞いた事ねーぜ… 子供の産めねぇ体になるのは当たり前で、病魔の巣になっちまって、精神も崩壊だ… 何をいくらやっても治らねぇんだよ… 直ぐに衰弱死か、自殺するか、家族に殺されるかだよ… ちくしょう!!」
ロダンが荒れていた。 昔、何かがあったのかな?
それを見ていたら、自然と落ち着いてきた。
「あっちの生きてる方に、行こう…」
「あぁ、そうだな…」
男2人、ゆっくりと歩いて行った。 何かを忘れない様に、ゆっくりと噛み締めて歩いて行く。
「あっ! ソラくん! 真理ちゃんが! 生きてたよーーー!!!」
大泣きしながら、俺に抱きつき崩れ落ちる冴恵先輩。
パッと見た目は、生きているか死んでいるかは分からないが、プリーストの性徒会長と、冴恵先輩が言うんだ、生きてるんだろうな。
でも、こっちも、酷いな…
何匹の相手をさせられたのか…
「体調、状態はどうなんだ?」
性徒会長に聞くと、ゆっくりと返答してくれた。
「恐らく… 妊娠してますね…」
あー、そうだよね… 俺達が来なかったら、今日この子は、苗床デビューしていたんだろう。
「大丈夫… まだ産まれていなければ… 助かるかも…」
アブサロムさんがボソボソっと教えてくれた。
「助かるって言っても… 妊娠してるって…」
話しを聞いて、理解できたのは、【避妊】の魔法をプリーストの性徒会長が使えるらしい。
何故、そんな魔法を覚えたのかは聞かないでおこう。 それが優しさってものさ。
ゴブの子供を作る体液… には、卵子を誘発させる能力が強く、苗床になるのが遅く、最後まで残され強制的な交尾をされた苗床は、100匹程のゴブを産み落とす場合もあるとか…
誰だよ… そんな事調べた奴…
まぁ、何も知らないで失敗するよりかはいいか。
失敗した俺達には、耳が痛い。
性徒会長は、倒れて気絶している真理さんの下腹の辺りに手をかざし【避妊】の魔法陣を描いていく。
「ぅぅぅぅ… ギャャーー!?」
いきなり目を覚ました真理さんは、お腹を押さえ痛がり悲鳴を上げ始めた。
「痛いぃーー!!」
「身体を抑えてくれたまえ!」
性徒会長の言葉に、皆で真理さんを押さえ込んだ。
俺は力足りず、弾き飛ばされてしまった。
相当な疲労だったからで、女の子より力が弱かった訳ではないんだからね!
ボトッ、ボトッ、ゴブになるはずだった物が、真理さんの中から、堕ちてくる。
ちきしょう… もうこの小屋から出たい… だが、俺達はこれを見ておかないとダメなのでは?
ちゃんとしていなかった代償が、これなのだから…
全て堕ち、また真理さんは気を失ってしまった。
性徒会長は、何度も、何度も、【ヒール】をかけている。
後は、彼と冴恵先輩に任せて小屋を出る。
「はぁ… 終わったか…」
「はぁ? まだこれからだろ!」
ロダンの、まだという言葉に考える。
周りを見渡す。 死体、死体、小屋、死体、死体、死体、小屋、うーん、とりあえず燃やす?
「このまま、ここを放置すると、またゴブとか盗賊とかの巣になるんだよ!」
俺が苗床を処理してから、ロダンは俺にダメとは言わなくなった…
しばらくしていると、デポンがやって来た。
多勢の冒険者を引連れて。
皆で、残党が残っていないか、山狩、森狩になるのかな?
そして、徹底的に巣を破壊するらしい。
今回の事件、実はかなりヤバい事態になっていたらしいのだ。
5千匹の大軍となると、近場の村村は全滅、そしてそこで苗床ゲットで、ねずみ算式に数が増え続け、過去には100万匹を超えた事もあったのだと…
怖えー、ゴブ、恐ろしいな…
これからは、ゴブ即斬でいこう。
俺達パーティーは、精神的にも、肉体的にも疲れきってしまい、残党探し、巣の破壊には加われなかったが、俺達の冒険は終わった。
手に入れたのは、膨大な経験と女の子1人の命。
十分過ぎる戦果ではないかな?
ここがゲームの世界なら、レベルが10は上がった気がするよ
でもね… それを喜んでいるパーティーメンバーがいないんだよね。
未来ちゃんと栞菜ちゃん、一応先輩だから、ちゃん付けはダメかな?
まぁ、もう話す事はできないし、呼び方なんて、何でもいいや。
人の命の重さは、地球より重いとか言ってた人がいたけど…
この世界では、命は軽すぎて… 1ヶ月で39人もの日本人がここで死んだ。
もし、万が一に、地球に戻れる方法があったとして、どうやって説明すればいいのか…
グチャグチャな考えは纏まる事も無く、俺達は城壁都市パルマに帰還したのだった。
俺達は、真理さんを冒険者見習い寮に送って行く。
真理さんの意識は、一応戻っているのだが…
心ここに有らず? 普通に考えたらPTSDとかの状態ではないのかな…
精神科医じゃないし、ただの学生ができる事はここまでと割り切ってしまいたいが、それでは、またちゃんとしていない。
さて、これから俺達は、俺は、どうすればいいのかな?
考える時間は沢山あるが、皆がダメになるタイムリミットはある気がする。
「そうだ! 依頼完了してもらったから、追加報酬を冒険者ギルドへ届けておかないとダメじゃない?」
「そうだった… 冴恵先輩は、真理さんについててあげてよ 俺達が後の事はやっておくからさ…」
「そっか… うん! ありがとう!」
冴恵先輩の、その前向きな笑顔。天使。
冒険者ギルドへと向かう道すがら、俺達パーティーの、男共、俺、瑛太、ボンちゃん、性徒会長の4人静かだ。
俺はまだ、結構身体がボロボロ。
血が足りない感じだね…
ボンちゃんは、【チャージ・パイルバンカー】を放った方の盾がバラバラに吹っ飛び、片腕しか盾がない。魔鉄がボロボロに吹っ飛ぶ威力って恐ろしいな…
瑛太は、どこにも怪我がなく、やれる事は完璧にこなしてくれた。
だが、あんな光景を見せられれば、口数も少なくなるよね。
瑛太は何だかんだ、地球にいるころから、俺と話してくれたり仲良くしてくれようとしてくれる。
基本は優しい。だから、今回の事で気に病まないといいのだが…
「はぁ、今日は、誰ちゃんに慰めてもらおうかな…? あぁ、僕はちょっと彼女に会ってくるから、後は頼むよ! それじゃ!」
シュパッと手を上げ、スタスタと離れていく性徒会長。
分かっているさ、真理さんを助けたのは紛れもなくアンタだよ。
流石、だよ…
慰めてもらってこいよ… どの彼女か知らんけど…
結局、冒険者ギルドまで、付き合ってくれたのは、瑛太とボンちゃんだった。
良い奴らよの。
俺達が、冒険者ギルドの扉を開けて、中に入ると一瞬の静寂の後に、大喝采が巻き起こったのだ!
何がなんだか? 分からんのだが?
朝もいた受付嬢が、この時間まで待ってくれていたのだろうか? いや、ただこの世界に労働時間の概念がないのか? それともちゃんと残業代が出るのか?
分からないが、何故か、やっと帰ってこれた気分になれた。ホッとした。
「皆さん… 本当にお疲れ様でした! そして、この城壁都市パルマを代表して、ありがとうございました!!」
「「おぉーー!!!」」
物凄い喝采だね。
「いえ、俺達は… 俺は… ぜんぜんダメで… ちゃんとしてなくて…」
あれ? 何でさ? 何で涙なんて… こぼれてくるのさ?
優しく、受付嬢さんが抱きしめてくれる。
なんぞ? これ? あれ? いい匂い?
耳もとで、小さな声で、
呟いてくれた。
内容は… 内緒だ。 恥ずかしい。
ちくしょう… 受付嬢のお姉さんに癒され、勇気をもらっていると、周りの空気を読めない、読まない、冒険者野郎共、いや、女の冒険者もいるから、レディース&ジェントルマン達に、冷やかされ、くぅ、この恥ずかし目、どう晴らしてやろうか!
「おう、おう、おめぇら! 今日は、俺の奢りだ!! 飲むぞ! コラー!!」
俺は大声で叫ぶのだった。
冒険者ギルドに隣接されている、飲み屋&飯屋は朝まで騒がしかったらしい。
請求額を後から見て、もう、冷や汗ダラダラよ?
バカなの? 冒険者って? 飲み代で金貨1000枚超えるって?
恐らく、残党狩と巣の排除をやってくれた冒険者達も後から合流してたからかな…
それでも、金貨1000枚いくか? 街中の連中が飲みに来てたんじゃない?
俺は残念ながら、1杯飲んだら即、パタン。
アルコールが強い体質じゃなかったのか、相当疲れてたのか、初めての大人な体験は、ほろ苦かった…




