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1話 異世界転移にあたる


 ふわふわと宙に浮いている存在。これは確かに俺なのだが…

 自分の身体を見渡してみる。まん丸い寄りの火の玉の様な形で手も足も何も無い。ただ紐の様な何かが下の方に垂れ下がっていて、そちらの方に目をやると、俺が倒れている。


 俺の身体の中から、紐の様な物に繋がっている火の玉の様になった俺。


 意味が分かるだろうか?


 うん、幽体離脱?みたいのをしたらしい。


 どうしたものかと、ふわふわしながら世界を見渡す。

 今まで見た事のない世界。

 美しい光がポワポワそこら辺から湧き出て、世界を染めていた。

 それは、電球などから発せられる、機械的な光とは違い、温かい命の輝きのようだった。


 木々から大地から空からの幻想的な光に包まれていると、数キロ離れた森林から、何匹かの緑色の子供くらいの大きさの生き物が出てきて、こちらに向かってくる。


 俺は急いで身体?火の玉状の自分自身をなんとか動かし、自分の身体に戻り辺りを見渡すと、自分達がいる平原からは広大な森林が見える。


「あっ!! 目が覚めたか! (そら)


 目の前にいたのは、小学校からの幼なじみである、高橋(たかはし)瑛太(えいた)


「なんかヤバい感じかも… 向こうの森から変なのが寄ってきてるぞ…」


「変なのってなんだよ…」


「うーん… ゴブリン?」


「ゴブリンってあのゴブリン?」


「おう」


 そんなバカな話しをしていると、他の誰かもゴブリンの存在に気付いたのか、騒めきだした。


 何故こんな所で学生達がいるのかと簡単に言うと、異世界転移にあった。

 朝の高校の校庭にいた総勢123人が巻き込まれたのだ。


 登校中の者も、朝練をしていた者もそれを監督していた教師陣も全て平等に異世界に落とされたのだと思う。


 もしかしたら、新種のゴブリンみたいな生物のいる広大な森林と平野が見渡せる地球上の何処かに、集団拉致された可能性もあるが…


 日本の普通の高校生達を拉致する意味も分からないし、犯人らしき人もいない。


 恐らくは、俺も読んだ事がある小説とかの異世界転移というやつではないだろうか。

 その仮説の1番の理由は、ここに来てから俺の身体が変だ。

 幽体離脱?が出来るようになったし、他の生徒の中にも身体能力がとてつもなく上がった者達がいたりもするからだ。


 ここは異世界として考え、行動をとる事にしてみるか。


 まずは、うん、逃げよ!


 何、あの緑の気持ち悪いやつら…

 叫んで、剣みたの持ってるやつもいるし…  


「瑛太! すまんが俺は逃げる!」


「えっ!? おい! 逃げるってどこにだよ?」


 そんな話しをしながら足を動かしていると、後ろからゴブリンと女子の叫び声が響き、襲われたのが分かった。


「助けてーー!!! 誰か…」


 足が止まったのは、俺だけではないだろう。

 しかし、そこから女子生徒を助けに動けた者は、1人だけだった。


 もちろんそれは俺じゃない。


 学校では有名人な、3年生の島田(しまだ)冴恵(さえ)先輩であった。彼女は剣道部のキャプテンで全国大会の常連の強者だ。


 ちなみに俺は1年の帰宅部一筋、クラスに1人はいる少し根暗な奴の部類に入っている可能性がある奴です。


 一応、瑛太とは話しをする仲だし!

 ぼっちじゃないし!




 冴恵先輩がゴブリンに向かって木刀を振り下ろし、1匹の頭を潰してた。


 あんな木刀なんで持ってるのさ…

 剣道部だから?それなら竹刀のような…


 まあ、そんな事はどうでもいい、この状況で戦える人がいる事が重要だよね。


「おい、おい、あのゴブリン達森の中からどんどん出てくるぞ!? って、俺ってこんな目が良かったけ…?」


 瑛太が隣りで不思議そうにしている。恐らくこの世界に来た影響で、何らかの影響が俺たちの身体に出た結果、瑛太は目が良くなったという事かな?


 そんな中、島田冴恵先輩はゴブリンの頭を1匹また1匹と潰していく。


 それに続けとばかりに、朝練をしていた野球部や体力のありそうな男子生徒と教師数人が、ゴブリンへと向かっていった。


 もちろんその中に俺はいない。


 転移した学生達と、ゴブリンの数は拮抗しているが、戦いに参加している人数は圧倒的にゴブリンの勝ちなのだ。


 防衛線と言われる物があった訳ではないが、拮抗が崩れていく。


「あれ… ヤバいな…」


「あぁ、俺達も戦いに参加するか?」


 瑛太が何かカッコイイ事を言っている。

 だがしかし、俺はそんなカッコイイ人間なんかになってはやらん!

 他人を守る為に自分を犠牲にする…

 そんなモノ、クソ喰らえ、俺は生き残る!

 たとえ、クラスで1人しかいない話し相手、瑛太を犠牲にしてもーー!!!


「おまえ、今、俺を犠牲にしても生き残るとか思ってたろ…」


「あっ、はい… すいません…」


 コイツはすぐに俺の考える事を当ててくる節がある。さてはニューなタイプな奴なのか??


 まあ、いい、今俺が生き残る為に出来ることは?

 ここが異世界なら、この世界に来てから手に入れた力に頼るべきではないか?

 郷に入っては郷に従えとも言うしね。


 とりあえずやれる事を整理しよう。


 俺、変な人玉になれる。瑛太、目が良くなった。


 うん、ふ・ざ・け・る・な〜〜


 こんな力でどうしろと?考えろ!


 考え事をしている俺をよそに、瑛太は小石を拾い、ゴブリンへと向かって投げていた。


 観察していると、これがよく命中するのだ。


 投石は人類最古の攻撃方法とか言われてるだけあって、石って当たると痛そうではすまない程の威力で、瑛太は次々にゴブリンの頭に石を当てていき、倒している。

 死んでいるのか気絶しているのかは分からないが、戦線離脱するゴブリンが多くなれば、俺が生き残る確率も高くなる。


 学生達の攻撃主体は3組いた。

 まずは、島田冴恵先輩、野球部、瑛太と続く。

 瑛太もそれなり頑張っているが、島田冴恵先輩の動きは洗練されていて、無駄のない攻撃でゴブリンの屍の山を築いている。

 

 瑛太なりに頑張っているのだろうが、島田冴恵先輩には遠く及ばない。

 まあ、それでも及第点くらいはくれてやろう。


「おい、今、俺の事、及第点くらいとか思ってたろ?」


「お、おう… 及第点くらいが丁度いいぞ? 頑張り過ぎると後で、アホな奴らに頼られてめんどくなるから… そしてその期待に応えられないと、大きな反動で非難されるのさ…」


「何の話しをしているのか分からんけど… とりあえず手伝えな!」


 瑛太に説教されるかと思った時、俺達から数十メートル離れた位置にいた女子生徒が数匹のゴブリンに押し倒される瞬間を見てしまった…


 瑛太が小石を投げようとするのだが、女子生徒とゴブリンがぐちゃぐちゃ揉み合っている所に、女子生徒に当てずに投げる自信がないようだ。


 ふん、情けない奴だ。


 それならと、他の主力部隊を見渡すと、女子生徒が襲われるのは気づいているが手一杯で助けに行けなさそうだ。


「おい! 空! おまえが行け!」


 大声を出し過ぎですよ?瑛太さん!

 ほら、他の皆さん、期待の眼差しでこちらをチラ見してますから…


 俺にどうしろと?ただの火の玉?人玉?になるだけよ?手も足も出ないってこういう事よ?


 ダメだ… 視線恐怖症になりそ… 


 まだ、幽体離脱して人玉になってた方が気楽だと思い、俺は身体から意識を手放す。

 パタンと自分の身体が倒れ、俺は人玉風火の玉になり、襲われている女子生徒の方を見る。


 この人玉は、他人からは見えないようで、多くの視線から逃れられホッとする。


 女の子が目の前で襲われているのに、ホッとするなって?

 そんなもん知らん!

 だって本当に皆様方の視線が怖かったんだもんよ!


 まあ、人玉になってはみたものの、やはり女子生徒を助ける方法が思い付かない。

 とりあえずこの能力の詳細は理解していないと、これこらのこの世界での生活に、支障をきたす可能性は高いとみた。


 だから、これからする事は人助けではない、ただの実験だ。


 自分に言い聞かせる。

 さあ、始めようか! 楽しい実験の時間だ!


 人玉実験考察1、この火の玉みたいな身体は燃えているのか?


 まずは、他人から見えていない時点で、普通の燃焼現象ではないと推定できる。

 それでは、接触した物は燃え移るのだろうか?

 恐らくは、燃え移らない。


 人玉実験実証1、俺は襲われている女子生徒に近づいて、ゴブリンの腕に触れた。


「ぎゃわっ!?」


 そのゴブリンは、俺が触れた瞬間、驚愕の声を上げて、腕を振り払っていた。


 触った所が火傷したみたいに爛れているんですかど…


 人玉実験確証1、この人玉、火の玉は、見えないだけで、現実世界に顕現している実態がある物体。

 触れると火傷する程に熱いらしい…


 これって、攻撃手段になるのでは?


 人玉実験考察2、触れるだけで火傷するこの人玉、ゴブリンの中に入ると、身体の中から燃やす事ができるのか?


 人玉実験実証2、次の実験は先程のゴブリンではなく、女子生徒に跨って制服を破くのに夢中になっている個体でする事にした。


 別に、女子生徒を助けたい一心とかではない事は先に言っておこう。


 先程の、火傷を負わせたゴブリンにしか効かない可能性を排除する為の仕方の無い消去法からだ…


 自分ではない物体の中に入る事は、とてつもない怖い。

 人玉ではなく、実体の俺であったら、この惨たらしく醜い悲鳴を同じ学生達に披露していたであろう。


 いや、本当、人玉最高になれるようになっててよかったよ…


 って、そのままゴブリンの中に入った俺。


 俺の頭の中に閃いた言葉は、憑依、そのままの意味で、俺はゴブリンになっていたのだった…


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