十六話:土煙の激闘
霊虎との睨み合いが続く。
コイツは僕をどう料理するか、算段しているに違いない。僕の方はというと、コイツの攻撃を受けながらチャンスを伺うしかない。あくまでも主導権は霊虎の側にある。けれど、これでいい。僕は時間を味方につけている。
一時の睨み合いを経て、霊虎が右前脚に霊圧エネルギーを溜め込む。が、直接の打撃攻撃ではないのか、目に見える形で霊圧エネルギーを溜めている。黒炎? いや、あれは……、黒い光!?
おい、それは昇華球じゃないのかよ! 僕は人間だぞ!
僕の心の叫びは当然届くことはなく、霊虎が黒い光を放つ。ロクが普段、下級霊を昇華させるときに放つものと同じに見える。さすがに昇華球を受けたことはない。これを受けたら……僕の身に、何が起こるのかわからない。それに、コイツが放ったものだ。昇華球と見せかけた中身の違うものという可能性だってある。ここは防ぐしかない。
しかも、嫌な感じがする。防ぐにしても、触れることも避けておく方がよさそうだ。急いで二割ほどのエネルギーでシャボン玉防御を張る。これなら、直接触れる可能性は一切ない。
黒い光がシャボン玉防御に触れる。
それの威力はかなりのもので、
簡単には弾き飛ばせない。
シャボン玉防御は大きく形を崩し、
黒い光に押し込まれる。
シャボン玉防御は耐えられずに弾ける!
黒い光はその衝撃で軌道を変え、
僕の頭を越えて後ろに逸れた。
―― ドォォオオン! ――
後ろの壁面に当たり、爆発する!
凄まじい威力で、土埃が舞い上がる中、
霊虎が目の前にいた!
ネコだまし
だったのか……。虎のクセしやがって!
他にもいろいろ突っ込んでやりたくて仕方のないところだが、左前脚の虎パンチが右から襲い掛かる。シャボン玉防御の内側に予め作っていた防御盾を、攻撃に合わせるように構える。白いヤツは両前脚に集中している。虎パンチの連打が来る! ならば、強く弾いてやる。今残っているエネルギーすべてを防御盾に注ぎ込み、強烈に弾くイメージをする。
右からの虎パンチ。
強く大きく弾き飛ばすと、
霊虎の左前脚を一瞬で、
その体の後ろにまで追いやった。
が、霊虎は弾かれた左前脚の勢いを利用するように、
体全体を捻り、そのまま右前脚の虎パンチ!
攻撃を予測できていた僕は、
防御盾をそのまま左へ向ける。
左からくる虎パンチも
強く大きく後方へ弾き飛ばす!
次は? エネルギーの流れを探る。
尻尾を予測してみるが、エネルギーの動きはない。
すると、左前脚に白いエネルギーが集まる。
―― ? ――
次の霊虎の攻撃は、また左前脚。だが、体勢が崩れている。霊虎の右前脚を弾き返して右後方へ、その攻撃時に捻った体は左へ流れている。体全体は左へ、右前脚は右後方へ、チグハグの状態。ここから左前脚の虎パンチには、相当な無理がある。攻撃までにタイムラグが生じる! これは、好機!!
僕は瞬時に盾をしまい込み、
ビカビカをそのまま霊虎に向かって飛ばす!
霊虎の顔面目掛けて一直線に!
が、霊虎は体勢が崩れたそのまま、
霊圧エネルギーを溜めた左前脚を
強引に前へと持ってきて、
青白い閃光を上方へと弾き飛ばす!
―― ドォーーーン!! ――
地下空洞の天井に当たると、
大量の土砂が降り注ぐ。
けどな、これも予定通りなんだよ!
お前のネコだましの時に、
壁の脆さを確認したんだ!
そのまま僕は三歩ほど下がり、
土煙に紛れたところに、
砂鉄玉を投げつけた!!
霊虎は自分の周りには防御網を張っていない。張っているのは、この地下トンネル全体を覆うものだ。ならば、この砂鉄はコイツの動きを封じるハズだ! おまけにこの土煙で、砂鉄が撒かれたとはわからないだろう。お前がそれに気付くのは、体が動かなくなった後だ!
もう一度、天叢雲剣に気を溜め込んで、
柊ビカビカを出して、回転させる。
不確かな場面で、閃光は使えない。
ビカビカカッターで直接切り刻む!
土煙と砂鉄玉の砂塵が
もうもうと立ち込める中にある、
白いエネルギーの塊。
それは、僕に見える霊体のカタチ。
つまり、それが霊虎だ!
その白っぽいものは、粉塵の中から動かない。正しくは、動けない……か。砂鉄の効果が発揮されている証である。もちろん磁波感知に不慣れな僕にしてみれば、本当にそれが霊虎で、本当に砂鉄で動けなくなっているか、確信を得ない。飛び込むには、実はかなりの不安がある。
死を覚悟したんだろ!
まったく、ちょっとうまくいった途端に、気が付けば生にしがみ付いてしまっている自分に、ほとほと嫌気がさす。
こんなチャンスはもうないぞ! 覚悟を決めろ! 気合を入れろ!
霊虎が居るであろうその煙の中に
飛び込み、切りつけにかかる!
あらん限りの力で、
剣を右から横一閃!
振り切る!!
―― ガッ! ――
止められたっ!! くそうっ!!
ええいっ!
ビカビカを回転させる!
―― ガッ、ガガガガガガッ!! ――
なにかを刻む手応え!
よしっ! 致命傷はムリでも、深手は負わせたハズだ! できることなら、このまま切断まで一気に!
踏み込む右足に痛みが走る。けれど! 構ってなんかいられない。もっとビカビカを大きく、回転速度を上げろ! 痛みすら力に変えて! 何もかも切り刻め!!
―― ウィィイイン!! ――
立ち込める煙りの中から、
ビカビカカッターをガードしている
霊虎の左前脚を刻んでいるのが、
垣間見えた!
よし、いけぇええ!
そのまま切り裂けっ!!
手に持つ剣に力を込めて、
チェーンソーでなぎ倒すように
右から左へ、押し切る!!
―― ガリガリガリガリガリガリッ! ――
よしっ!
天叢雲剣の角度は、
僕の腕の角度は、
完全に霊虎の頭をも
刻んだ位置まで来ている!
やったハズだ!
この致命傷を負わせたタイミングで、
青白い閃光を撃ち込んでやる!
柊ビカビカの動きを止めて、瞬間的に集中力を高める。そのまま霊虎の胴体もろとも、閃光を放つ!
―― ドォォオーーーン!!!! ――
一瞬の静けさ。
周りは衝撃で白っぽい土煙が立ち込める。
すべてが白の景色の中で、
霊体を認識する磁波との区別がつかない。
やったのか?
霧が晴れていくように、
土煙は拡散し、薄まっていく。
青白い閃光に焼かれたような
霊虎の体の断片が、
上の方から徐々に
露になってくる。
やったぞ! ついに、やったぞぉぉおお!!
まだ気を抜いてはいけない。霊虎の残骸をちゃんと昇華してしまうんだ。まだ、僕のエネルギーは二割ぐらいは残っている。コイツを倒して、防御網が解ければ、ロクが助けに来てくれる。使い切っても問題ない。僕はもう一度、天叢雲剣にエネルギーを溜め込む。いや、待て……。
ナニカ、オカシイ!?
もうすでに霊虎は虫の息のハズなのに、というか、死んでいてもおかしくないのに、
ナンデココヲ覆ウ防御網ハ、ソノママナンダ!!
土煙が晴れる。
僕が討ち取った霊虎の残骸が現れる。
その下から、
霊虎が姿を現した!!
コイツ!! 分身思念体を、盾にしてやがったのかっ!!
そう気付いたときは、もう遅かった。
霊虎の尻尾は、僕の左腕に触れていた!
―― バァアンっ! ――
左から、霊虎の尻尾に殴られ、
吹き飛ばされる!
景色が色とりどりの、
線になって流れる。
―― !! ――
声にならない、
衝撃と激痛!!
理解を超える痛みは、絶叫すらできない。痛くて絶叫しているヤツは、まだ絶叫できる余裕があるんだと知る。絶叫どころか、呻き声すら出せなかった。
ノーガードで受けた左腕は、
まだ身に付いているようだけれど、
すぐに麻痺してしまい
自分のものに思えなかった。
吹っ飛ばされた勢いそのまま、
今度は地面に接地、ゴロゴロと転がる
どこまで転がるのか、わからないほどに
ゴロゴロと転がる。
転がるのも、当然痛い! 左腕は砕けているのだろう、地面に触れる度に激痛が襲う。麻痺しているくせに、痛みだけがまるですり抜けてくるように差し込んできた。目が回るほどに転がっていたのが、徐々に緩やかになり、仰向けになったときにようやくその動きを止めた。
が、目の前には、
飛んで追ってきた
霊虎の姿があった!
上から落ちる力も利用して、
そのまま霊虎は虎パンチを
僕の腹に打った!
―― ぐふぅっ!! ――
血反吐を吐く。
いっそのこと気を失いたかったが、胃に受けたパンチは苦しすぎて、気を失うことすらできなかった。痛みよりも、苦しみに思わず腹を抱え込み、悶え、のたうちまわる。
が、霊虎はお構いなしに、その尻尾を僕の腹に巻き付け、上へ、宙へと持ち上げる。僕を捉えたそのままに、虎パンチで僕を乱打した。
はじめのうちは、
殴られている衝撃と
痛みがあったのだけれど、
そのうち意識は遠のいていき、
やがて気を失った…………。
第五章は本話にて完結になります。
次話より新章スタート! 見逃し厳禁です♪